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短歌工房
相変わらず
重いJUGEM こちらに引っ越そうかな。。
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internet「原人の海図」
(遠くまで飛べないだろうか)海深くある日思った<天使の翼>

幾度目の拒否を経験するマウス悲しみらしき青の点滅

いつだって置き去りになる石ならばいっそ知らせよ石塊の重さ

水明かり火明かり夏の夕明かり 人影ゆれて誰を待つ家  

雨に陽に風に晒して色褪せないそんな何かを見つけられたら

戦いの中に戦い終わる日を夢見てドンキホーテの風車

風車には誰もが夢を見るような羽根を広げる孔雀のような

雨に陽に風に晒され色褪せて儚く消えてゆくのもいいね   

青空と雨の匂いのする夜と変わらぬ日々の温和さに居る

珊瑚礁隆起してゆく突端に島の空港のどかに開け

断崖に寄せる白波、波頭 乳白色の雲の階段

浦島の龍宮という伝説の洞窟がある海中深く

ハイドナン珊瑚の島の海底に深く沈んで翠鳥の骨

翠鳥は眼ひらいて沈みたり 眼窩に生えてそよぐ海草

龍宮よニライカナイよ沖遥か走る帆舟の紅の帆よ

帆は風を孕み夕日に傾いて翠鳥の屍の上を過ぎたり

死の死の死 眠るためには千年を眠れる言葉が必要だった

砂糖黍畑をめぐるトロッコの鉄路に白い鳥の幾羽か

三月は優しい季節しゃんしゃんと鈴を鳴らして神社の仔馬

★木蓮がそして辛夷が咲くだろう 春ですあなたは死んではいけない

熊の仔は走る熊の親も走る 阿寒の冬は終ったらしい

鮮血に染まったような空があり傷ついている魂がある

空に雲、花に鳥ある幸福を 弥生の空と富士の笠雲

きさらぎの雲鬱々と垂れてくる降りだしたくてたまらない雨

白い花ジンジャー香るこの夕べ花に降る雨、小径の翳り

銀の森、銀の狼、銀狐 燻し銀とは何に燻され  

囁きは耳に 降る雪のクレムリンにはロマノフの宝石

★ 手紙には雪解け水の冷たさと春の香りのする草のこと 

★廃線のレールがのびてゆく村にひらく月夜の無数の茸 

閃光に地球は開き天蓋の草原もゆる焼けて爛れて

かぐや姫あなたの遺していった子がこんなに大きくなって母恋う

人間の足音絶える病棟に異形のものら漂う気配

ガスタンク一基しずもる北国に光の裳裾ひろげる天女

誘われ月の光が射しくれば血の緋縅の顔の無き武者

性格がまず何よりも似てしまう DNAに刻印がある

手遅れになって初めて気がつくよ 彫り刻まれた時の爪痕

木に向かうひとりぼっちの音二郎 彫る打つ刻む鑿と鏨と

格子戸が刻まれていて月明り その格子戸を出てゆく男

「おはよう」と「おやすみなさい」だけ交わす 緋色の鳥が巣立つ鳥籠

火に揉まれ風に煽られ落ちてゆく蛾の一生が今日終るらし

夢見ても夢見なくても私たち冬のカナリア 歌を忘れて

鮟鱇は吊るされ皮を剥ぎ取られ自分がなんだかわからなくなる

どこからも誰からも何からも束縛されざるKURO夏の猫

足裏が痛くはないの?象亀は 水場といってもこんな水溜まり

悪意あれ皮肉またあれ恙無く日々は暮れなむ六羽のかもめ

WEBの十重の二十重の網の目をすり抜けてゆくチシャ猫ニャジャラ

「衝撃」と「恐怖」の作戦ありまして 炎える狐が走った砂漠

火の色に包まれていた夜のこと母なる星と教えた狐

ジョバリアの骨を曝して眠る砂 サハラは風を孕む静寂

朝焼けの虹のサハラに一匹の蜥蜴が走るオオムカシトカゲ

休みなく歩きつづけた駱駝にも休息のとき 夜のサハラよ

たそがれて疲労物質ため込んで擦り切れてゆく海馬の首骨

ゆったりと羽をのばして飛ぶように手をのばしたし暁の空

大量の死骸が見える蛍の木 蛍の夢の亡骸だろう

死はいつか そう死はいつか死はいつか 駆けよって来る仔犬のように

幽霊の棲む夏に来て幽霊の姿を見たりメールで送る

柔らかな優しい脳に露草が 惑星のぼる天球の丘

瓶にさす藤の花ぶさながければたたみの上の生きる屍

★おんねんはさばくにうみにふりしずみよるのそこひをながれるオイル

せみだってかなしいだろうあまがえるつめたいだろう あえますか夏

アンダルシアにひまわり咲けばロシアにもひまわりがさくデ・シーカのそら

にわさきにサティが聴こえすうじつののちにふほうをきいていました

ごみばこをソラにできたらたのしいね ソシレファソラの底もそらいろ

ときじくのかくのこのみのかぐわしくあめのはるよもひでりのなつも

今さらもうどうにもならないではないか手足100本生えたからって

<屋根描けば屋根打つ雨の音も描け>甍に落ちる一粒の雨

車海老、酒に浸して躍らせて食する餐の惨にして燦

薄切りの茗荷、青紫蘇、葱、オクラ、平目/海鮮の舞

もしかしたらこれが最後の晩餐 そんな食卓の一輪の薔薇

<連作で記名して書く題詠「薔薇」> 薔薇殺法の薔薇の一片

今朝の薔薇 赤い蔓薔薇、どこまでも青空だけを背景として

いつか観た映画、ミクロの決死圏 臓腑に咲いた華麗なる薔薇

赤い薔薇、白い蔓薔薇次々とあなたに届け薔薇宅急便

「薔薇殺法」ベーカー街に吹く風を歌っていたのは秋谷まゆみさん

その夏は塚本さんもまだお元気で政田岑生さんもいらした

薔薇の実の黄色を愛す道端のフェンスに這っていた薔薇の花

雨という嵐ともいう『くれなゐのニ尺伸びたる薔薇の芽の』雨

クリムトのエゴン・シーレの血で描いた退廃ゆえに血の薔薇の空

薔薇咲けばそこは薔薇園、それが鮮血だったのならば戦場

冬薔薇(そうび)咲く庭かげの子守歌 罪を隠している夢の青

いつかまた信じられると思う刻 曠野に咲くという青い薔薇

青い芥子、青い蔓薔薇ゆめに咲く 虹の橋より降りてゆく道

(丁寧に剥がしてゆけばその人の初めの形あらわれてくる) 

綿帽子被って町は眠っていた その町にいた三人家族

婆沙羅、婆沙羅 遠き婆沙羅の裔にして海を見ていた水仙の裔

菫、韮、白水仙に黄水仙「昨日、今日、明日」夢の浮草

明日あれば明日の庭に咲いた薔薇、廃園なれば廃園の薔薇

虚しさの他に何にもないような このむなしさが存在の証?

かなしいね だってもうすぐ死ぬんだよ みんな、私たちみんなさ

おもいびと鬼に喰われて消えにけり見えぬ心の鬼なりと聞く

土蜘蛛は長病みにけり病み臥して心弱りて糸吐きにけり

存在が儚くなって背もたれが軽く感じて私がいない

たっぷりと大きな愛が注がれて<地球>と名づけられて生まれる

マエストロあなたの優雅で繊細な音の海から私は生まれた

昼の月はんぺんみたいな半月のそばをひらひら白い鳥になり

薔薇色の時の睡りをねむったら目覚めるだろう クメールの風

いつだって此処にある愛 ミミズクが風のささやき聴く夜の森

天と地と闇と光と海、生き物 たったそれだけ? 七日もかけて

<水惑星第3惑星地球という美しい星凍る20XX年>

死にたいな言葉じゃなかったはずなのに言葉なんだね殺されている  

火の工房、魔女の工房、肉を切り骨をばらして煮出だすスープ 

牡蠣殻の牡蠣の妖艶、牡蠣の華 乳白の靄たなびく夕餉   

火の透明、水の透明、白菜が透ける土鍋の水鶏沸

ふっくらとやさしく煮えた水鶏と真白き葱の相聞の光  

合鴨は田に放されて田に遊ぶ 一期一会と相見ての餐   

意味不明、意味分裂、意味切断 激辛キムチ火鍋、ビビンバ   

合鴨の仄かに紅の透ける鍋、葱やわらかに砂肝を抱く   

もうこれでお終いだって思う日の鮟鱇見たり湯気の向こうに   

カラザにはカラザの主張あるらしくぬらりつるりとつかまえられず   

さびしさやかなしみまでもまぎれゆく危うく崩る春の闇鍋   

フルートが月の光を浴びる窓 おやすみなさい木枯しの冬

不連続な間奏曲を聴くように夜更けになれば物語る冬

ふりむけば白雉(はくち)の舞の藤の花 あかねさす恋、薄ら氷の冬

ふくらんだ葉っぱに何の想い秘め揺れているのか睡蓮の冬

富士川の葦の河原のカワラヒワ お喋りしたい早すぎる冬

吹雪く海、凍る湖浮かんだら津軽に帰る ふるさとの冬

浮遊して生きているよというように眉うすき人たむろする冬 ☆

不確かな未来に震え砕け散る木っ端微塵の明日がない冬

膨らんだ夢も希望も潰え去る冬が来ている 精神の冬

浮浪児と傷病兵が街角にいた日本の去りし日の冬

風景の一つになった壁紙の一つになった日本の冬

含み損、丸ごと抱えて列島は錦秋の秋、小春日の冬

膨れゆく不良債権 渺々と行方も見えぬにっぽんの冬

復活を時に疑い時に信じ転び伴天連ガブリエルの冬

噴水の虹には夢の七色のカレイドスコープ 華麗なる冬

負の連鎖シエンクワンの洞窟の遺体数百 アメリカの冬

封印はしめやかに且つ華やかにタカンナの音 正倉院の冬

訃報また一つ受け取る let it be 為すがままなる列島の冬

Prelude z 秋の小径の前奏曲 いつか再び会うための冬

ふくろうは縞ふくろうに白ふくろう みみずく啼いてこの森の冬

不死鳥は死なない鳥と誰が言う数え切れないその胸の冬

不死鳥(フェニックス)病む鳥にして不死の鳥 かわらぬ愛の羽ばたきが見ゆ

ふくれつらしている誰か イシュタルに決まってるだろ。ねぇ、ギルガメシュ

不意打ちに弱かっただけ 突然に幕が下りたこと知ったリモージュ

フランケンそしてあなたのかなしみは創造主への反抗の繭

フランケンシュタインゆえに父もなく母も知らない存在の憂

沸点は99.974℃ もうこれ以上堪えられない眉

冬日射す如来・菩薩の光背の中の千年 微笑する繭

襖絵の紅葉山河に交じり映え 金箔霞む屏風絵に炎ゆ

風邪(ふうじゃ)ひき 葛根湯の成分の芍薬も炎ゆ知らぬまに癒ゆ

冬来れば冬の心に春来れば春の心の十七歳の眉

降りしきる雨音しげきこの夜も母のいのちをつなぐ白湯・粥

補陀落の海へ渡って行く船に酔いやすい私が薬服む白湯

不死不滅不老求めて来た徐福、遠く故国を見る岬に消ゆ

踏み出だす一歩の初めアフガンの戦渦と報道する義足義手

冬薔薇(そうび)、白鳥逝けば虹立ちて虹の重ねの分離層見ゆ

復活祭 カリヨンの橋渡るとき次の主題は蘇える野趣

普請好き祖父の望楼、時計台 明治の煉瓦色の夢見ゆ

不機嫌な祖父を知らねば水色の夢の行方も知らぬ白露

不可思議へ水は流れてゆくものを春の心も薄闇に消ゆ

降る雨も夜の心に吹く風もいずれ銀河を越えて来た騎手

ふらふらと眩暈するからおやすみと病のように優しき隠喩 ☆

冬茜、末期の水も間に合わずこの世を去りし人の眼の見ゆ

冬枯れの庭を巡って戻るとき差し出される一椀の白湯

不凍湖に雪降りしきり黒鶫(つぐみ)群がって鳴く 夕茜見ゆ

吹く風の川棚の簗、簗に見る笹竹の青、身を跳ねる鮎

不弥国も狗邪韓国も末盧国も卑弥呼の国も風と火の繭

紅鶴(フラミンゴ)もう淋しさは癒えましたか火のさみしさは

Gloria アンダルシアの火の心 マノロ・カラスコ風のバラード 

すいすいと風に乗ったら風の翅 ムカシトンボやムギワラトンボ

稲刈りの田んぼをのぞいていきました秋の夕日に染まったトンボ

朝顔とビルと夕焼け赤とんぼ あの人のもとへ飛んでゆきなさい

ハエも蚊も限る命を生きるからヒト科のヒトの私も生きよ   

秋の夜の簾の宿の何虫かチチと鳴き初むいつしか消えぬ   

日常がまたもこうして始まった 七星てんとう虫の伝言   

青虫を産み落としたる蝶も来て柑橘、ハーブ、晩夏にそよぐ 

この指はこの空洞に鳴るヴィオロンは何訴えて何泣いている

デンマーク・モビールまわる夏の午後 蟻が見ている砂と太陽

私は今日も私の絵を描くよ ドアを開ければ海はすぐそこ

土曜日の花火が上がり今週の油蝉にもお別れが来る

達成は何事にもあれ最終の列車連結解く摩擦音

晩年がそこにあること晩年という敷石の石畳道

もう秋か八月七日立秋の前日寒暖計が汗をかいている

新たなる権威タチハダカルその時に突き破る矢が必要だった

中途半端に開いた扉 ゴマアザラシにはまだ暑い夏

猟銃を暴発させるような秋 禁猟区なお殺むる死体

お風呂屋の煙突の吐く煙とか ひとりぼっちの風鈴だとか

色褪せたというよりも色失せた写真の中の昭和の子供

あの路地もあの看板も煎餅を焼くあの人も消える とある日

銀犀の彫刻すでに色失せて濃淡のみのなか 角らしき

秋の日があたたかくても太陽の心はとっくに冷めてしまった

置き去りの影を残して行っただけ ためらうように立つ影法師

大鋸屑(おがくず)を混ぜて焼くとき空洞が陶器の中に生まれるという

微熱して巨象のように横たわる もう終焉も近い体制

陽だまりにある石一つみほとけを削り出だすべく石工が一人

ともあれや「醜の巻貝」と歌われし「海の傷」もつ貝の名は何

呪われし醜の牡蠣殻傷深くさあれど海の滴る乳の

壁画には迦陵頻伽の鳥鳴きて菩提樹、蓮(はちす)、石に射す影

河原には水晶石や蛍の碑、精霊蜻蛉飛ぶ秋の村

石英は二酸化珪素の結晶で水晶となり水となる石

たとえば海たとえば風であれたならあなたをなぐさめられたのにボクは雪虫

その犬がやってきたのは道の向こうから だから道には友だちがいる

夏来ればツクツクボウシふるさとの樫の木で啼く静かさも来る

那智熊野、月の古道を踏み分けて通えば夢の紫苑もゆれる

波の花、月の小舟を吹き寄せて 風は早瀬を潮の音戸を

海鼠、雲丹、壷焼きさざえ、蕗に添え貝の酒蒸し潮の香の膳

夏風邪に月見ることもなく臥して川原の石のしずけさ思う  

流れゆく津軽の水はふるさとの金木、津島の修治さぁの水  

夏が好き 釣瓶を落とす深い井戸 涸れることのない清水湧く井戸  

泣かないで辛い思いはふりすてて辛子明太子、塩鮭(のお茶漬け)いかが? 

泣き兎、月跳ぶときは古傷が微かに痛む しっかりと跳べ

なぜ泣くと月の原っぱ振り返る母さんのいま白い影見る

讃岐では月は溜池その池の数だけあって月を見る池

夏の水、艶やかにあり深く澄む 樫の梢も白い水霧

泣いたのは疲れていたし不安だし悲しい夢にしかも似ていて

夏の日がついに終って浮浪者を乾いた土の屍にして

なぜこんな冷たい雨が不条理が苛酷な生が視野杳くする

泣かないよ疲れた街が不安でも風は南の島からも吹く

脳(なづき)には月の砂漠の深井戸が隠れて今日も紫紺の宇宙

夏の朝ツクツクボウシの降る声と風もとまったしじまの深さ

なみなみとついでつがれて降る雨に迦陵頻伽の至福聞かせよ

夏の闇 月読、月の深井戸は涸れることなき静けさの井戸

夏の日の月夜の森の梟や風吹く夜の鹿の鳴く声

膾吹くつくづく懲りて深傷のかつての熱さしばしも忘れえず

鯰にはつい騙される深い沼、川の澱みにしっかり隠れ

艶かしい月ではないか更けてゆく川面に映る静かな夜の

なまこ壁続く土蔵と深碧 川の流れと白い格子柄

何だって辛い切ない深い理由(わけ)悲しい理由まで喋っているの

夏の夜は続く夢路の深い闇 川も下りて潮路遥かに

夏来れば月も雲間に震えもする輝くばかり死の八月は

鳴神の月の小舟は不帰の人悲しむらしきしばし漂う

流されて月夜の舟は不帰の舟 帰らぬ去年の四万十川の夏

菜の花の月は上弦 吹く風も海峡こえて四月の吹雪

夏の庭 ツワブキの黄に降る雨か 蜻蛉の墓、白鳩の墓

夏に病み爪も青みて不帰の人 影法師立つ白い魔の刻

夏の夜の月は大きい 故郷の海岸に来て島の夏来て

夏風邪に釣瓶に冷やす深井戸の花梨は喉を鎮める果実

あの朝も竜胆咲いて蛾のような蜻蛉のような羽化始まって  

安曇野の竜胆の咲く画廊には透明な空、海の絵の空  

雨音は林間に建つ硝子工房の弔うように打つ時計から 

愛してる理由はないよ蒲の穂が遠い川面を海へ流れる  

雨の朝リアトリス咲きガムランが遠く聴こえる海辺のテラス 

愛していた理由の一つ画集には遠い帆影と海の青さと  

熱き恋、理由なき愛 画壇には友だちもなく海を描く人  

青木繁 理解求めず画壇にも遠く描かれていた「海の幸」 

雨の街リラの花咲く瓦斯燈の灯るやさしい愁い降る町 

劇団の研究生の一日は玄関、廊下の掃除に始まる

僧院の修行僧たる一日も 掃くこと拭く事洗い清めて

働けば働くことが好きになる? 働くことが苦手でしたが

帝政ロシアの田舎貴族のオブローモフ働くことを知らずに死んだ

寝椅子から彼の寝台までの距離その他に歩を歩むことなく

つまりはもう死んでるように生きていて下僕一人に全て任せて

人生は上の空なるうちに過ぎコンスタンの書くアドルフもまた

されどされどコンスタンとかゴンチャロフ有能にして多忙な人々

─蛎崎を二つ先にて降り立てば海はすぐそこ海の見える駅─

鰯網上げて釜茹でした鰯、夏の天日が作ったイリコ

嫋嫋と形容される女ひと此処にはいない二の腕までも

浜に人、工場に人、船に人 八月九月、入り江の村は

その海老は蒲鉾の海老 海老蒲鉾 海老の天麩羅などとも言って

「働けど楽にならざる暮らし」という持分使いきりたる暮し

働くということ知らず過ぎた世の先祖の分も働かされる

「世が世なら」世が世であってもなくっても、もう私たち働くしかない

昭和があり平成があり君が代は千代に八千代に血もて贖う

働けば喪い働かざれば餓え心一つの飼い主ははや

筋肉も働いているそれゆえに心筋鍛えたり休めたり

私は元気をもらった私は勇気をもらった 働くコトバ

蜜蜂は働き者か 巣が蜜と光りで溢れるほどに働き者か

郵便配達夫は働き者か 山奥でも離島でも正月でも働くほどに働き者か

風は働き者か ふうしゃにでもかざぐるまにでもなるほどに働き者か

鈴虫は働き者か 力尽き鳴けなくなるまで鳴くほどに働き者か

夜は働き者か 恋人たちが逢瀬を重ね泥棒たちが闇を奔るほどに働き者か

心がねちょっと火傷をしたのですだからね少しだけやすみます☆

初めから好きじゃなかった働いて働かされて生きるということ

汚されて汚れて生きるその他にどんな生き方あったのだろう

喩えれば日向の石の影に似て予約した死を映す黒揚羽

夢ならば醒めよでも夢じゃないから毀れて生きる

懐かしいものの一つに小母ちゃんが焼いたお好み焼きの天かす

今はないその街はないもう何処にも 明るい月が攫っていった

民営化スタートするから引越しも考えている小さな局舎

長屋門の片袖使って開局し 明治、大正、昭和も越えて

1丁目1番地から配達の赤いバイクが出る坂の町

郵便の袋が山と積まれたお盆前 集配・郵便・簡保の窓口

差し立ては地方区分函 自局宛とは違って少ない

下り1便、杷束解束、即打鍵 2パス終了午前7時半

どの家に誰が住んでてどの家に猫がいるかも知ってる郵便屋さん

料金不足、住所不明の差し戻し、市役所、私書箱、速達、特殊(書留)

小包の入力忘れずチルド便、花の宅配、集荷に注意

正確にかつ迅速に丁寧に、幽霊郵便残留注意

夕陽射す局舎に漸く浜風が もうすぐ帰って来る釣り船が

ほんとうは訊いてみたいのあの人に何がしたくて何を希んだか

女優にも歌手にもなれないそのうえに家事労働も不得手なんだし

夢見つつ老いて死のうね夢見つつ 夜のボートが岸を離れる

手に職も資格もなくて百姓も漁師もできない 何で生きよう

雨の日は雨を見ている風の日は風を見ている虹の光彩

今泣いて今笑ったよ今怒り今笑ったね明日は南風

あの空が黄色くなって夕立が斜めに町を通り過ぎるよ

日に三度お米を研いで日に三度御飯を炊いてそんな毎日

どうしたら私たちの人生が明るくなるの 働けばいい? 

光ったよ稲妻、鳴ったよ今カミナリ 雨がやんだら 八月の虹

「宿無しに向いた公園あるだろうテント張るって選択もある」

「働かない宿無しだから掃除する 狩りに最適、狩りは最高」

不忍の池の雁たち飛び立てば忍ばぬ空の光り零れる

宿無しの猫の帰っていく先は去年母ねこ死んだ公園

舌先にミルクひとすじ親切なおばあさん 夜の痩せ猫

宿無しの野良猫だから飼猫の私たちとは違うと三毛が

「どですかでん」プールを描く二つの手 もうすぐ街は土砂降りでしょう

革命はついに起こらず起こりえず心に棲んでいる冬の虫

海ゆかば水漬く屍の万燈会 漂う暗い海の灯の船

パラサイト症候群のたそがれの精霊浮かぶ八月の海

野鼠や鳥の運んだブナの種 日陰の種が待つ光る森

熊笹も雑木も邪魔にはしない森 ブナは静かに明日を待つ樹種

繊細に水も光りも分け合って ブナは寄り添い育つ優雅種

水の森、太陽の森、風の森 精霊が棲むという時の洞窟

始まりもなく終りもなく私たちにはただ現在進行形

移り住む都の端の掛け小屋のサーカスみたいな生活(たつき)あること

さてどこに再構築があるのかと見回せば窓際のペンギン

容赦なく苛酷な嵐吹き付けて最終戦争みたいな日々が

向日葵の首を動かすお陽さまの働きもののお日さまのこと

流木や貝殻にだってあるという命の名残りのような夕焼け

知らないで知らず知らずに傷つけてそういう私がいたことを知る

悲劇から悲劇を終らせる働き 他人の声が聞こえはじめる

不作為の過失重ねる愚かしさ もうお終いに。。できるだろうか

泥牛蒡、葱がはみ出す袋がある この夕刻の淋しい時間

鮭の子も鰊の子供も赤赤と食卓灯す夕餉の時間

山の音、川棚の風、耳澄ませ目瞑れば落ち鮎の影

桟橋に横付ける船引き入れて照明灯の下に烏賊見る

伊勢海老の舌に仄かな甘さに似て暮れなずむそら港夕景

港には雨降るもよし止むもよし 出船入船にぎわう夏は

海底に眠っていたと思うのに引き揚げられて哀れ蛸入道

断ち割って選別すればなかなかに冷凍鯨に残る銛傷

吊るされしまま削がれゆく鮟鱇の体内にありしころの水嵩

若い日の傲慢にして過ちの多き私のキリギリス死す

教師B照葉樹林の調査して落葉樹こそ木々の王様

伐採は神木残し欅、杉、檜、樅の木 陽当たる道の

林道は県境近い恩賜林、県有林、と富士見山まで

木を敷いて樹を滑らせて谷底を走る道まで一気に落とす

その技術伝える人も無いままに荒らして枯れて倒木目立つ

晴れた日は湖に降る藤の花、白鳥下る忍埜七湖

葡萄園その一面の葡萄にも斜陽あまねく充ちる夕暮れ

貴腐葡萄熟れ熟睡する一の宮 甲州葡萄の眠れる館

熟成のワインの樽にひっそりと三千年の胞子が育つ

腐るもの時に馳走の曼陀羅に 夢もしずかに貴腐となりゆく

坂下の煙草屋さんの不愛想 箒と雑巾バケツ片手に

文房具店宇宙堂の小父さんと小母さんの愛想良しは天下一品

荒物屋阿波屋の店は通り抜け 鰻の寝床みたいなお店

古書店の奥の帳場の黒光る階段横の「江戸名所図絵」

働いて身体こわして入院という噂聞く接骨医工藤先生 

お団子は香林堂本店の看板 みたらし、餡子、お月見団子

自転車屋、お肉屋さんも閉店し閑古鳥鳴く坂下商店街

一軒のスーパーマーケットM頑張って一等避暑地に招待セール

花舗「四季」 薔薇の棘取る指早く水桶変える手つきも早く

日々競争日々研鑚の商店街 後継ぎ絶えて油蝉鳴く

今週でお終いになる酒屋さん ビール配って乾杯の声

昔この此処に映画館があったという駐車場には白日の難破船

あの夏の日離れ離れになったけれど君はオフィーリアに逢えるのか

惨劇が起こるよ夏の午後だから 一木一草動かざる夏

薄紅の茗荷、生姜を食すとき夏ゆうぐれの涼しさは来る

紫陽花の色失せし頃アジサイの干菓子涼菓の店の打ち水

祝祭は仄かに杳く黄昏の光の中の鱧の身の白 

牡蠣、鮑、さざえ、檸檬の風炉に入れ遺恨煮詰めて土産の煮貝

薔薇色の生ハム冷やしその陰にトマトの滲むカニバリズムか

母さんと呼ぶことのない母さんをさがしているのねクローンの羊

雑踏のダークサイドにたった今ひとを殺したラスコリニコフ

探すのは見つからないと決めたから逃げてしまった番の小鳥

夜空には夜空の星があるゆえに星の墓場も隠れているよ

夕暮れてたどる迷宮、背戸の藪 狐の嫁入り 過ぎた春の日

幌付きの馬車が西部を走ってたそんな時代のお尋ね者さ

向日葵が種に隠した真実は誰も知らない探してごらん

秋の街、こんな静かな雨の日の遥かに海が見える隠れ家

しばらくのさようならですおわかれです地球の青さ忘れていません

あの夏になくした瑠璃の硝子球 捜しているのね夜明けの鴉

「二十四の瞳」の中の百合の絵のアルマイトのお弁当箱

郷愁は危険な薔薇の棘かしら 私を刺す病む薔薇の棘

明日まだ憶えていたらこの強い百合の香りのせいにする獏

息苦しいばかり抱きしめられた日の 百合の根元に埋められた日の 

ベネチアの商人の家のフレスコ画 百合の咲く庭、絵の中の百合

空洞に百合を懐胎する裸身 処女懐胎のマリアの胎児

敗北の太鼓打たれて遠ざかる 体内に咲く百合育つ午後 

透かしユリ、薔薇とブバリア花束を後部座席に置いて夏来る  

あの夏のあなたが元気だった日の夏の訪問 百合を見ていた 

山蔭の百合の胞子を受けとめて蛍見る沢、水満ちる沢 

さよならと手を振っていた 庭先のユリが小さく揺れていた夏

いつかまた 一年後の約束のあなたがいないこの夏の駅

ブルボンの封印解いて鉄仮面外して頬に心地良き風  

封印は密やかにまた軽やかに夜毎に咲いた仮面舞踏会  

マザランもリシュリウも退け 紋章が刻印された仮面が割れる

ブルボンのルイ王朝の正統の王子引き継ぐ百合の紋章  

銀彩の百合が微かに残っている百合の高さに立つ墨図壷

山道に百合自生する霧の道落人たちの逃れたる道 

せせらぎの微かに聞こえ人里の人の匂いを避ける獣道 

六月の殺意はげしく百合香り百合が揺れれば一夏の最期  

笹百合の祭を見むと奈良の旅 稚拙可愛ゆき犬のお守り  

百合若の末裔にして血の系譜 百代の裔うたう百合歌 

笹ゆりの媛蹈鞴五十鈴姫命子守神 犬の守りも尼僧が作る

三輪山の三枝祭ゆりまつり水無月の鬱流す狭井川

海の名で呼ばれたことも忘れ果て貝や鯨の墓場になって

海峡を浮き沈みして漂ってボトルが届くような初夏 

櫂も櫨も海図も羅針盤もない星降る夜の風の鳥舟

逢いたくて探して来たよ君が住む星の海図は僕が持っていた

砂浜に砂紋を描く波でした 海の夜明けを見ておりました

生きているその確かさを知るために星の海図の示す海に出る

青嵐吹くころ船出した船が太平洋を漂っている

まどろみに一艘の船出てゆけば帆柱の消えてゆくまでの水平線

夢ならばまだ水平線の向こう側 光る海見る海岸電車

薔薇色の海に逢ったら伝えよう あの船ならば銀河に消えた

薔薇色の海に日輪沈むころ天空をゆく舟のあること

唯一の望み断たれてここまでと水の波紋の中心の渦

櫂も櫨もなくした船が午後の海、曳航されてゆく春の湾

逢うために生まれて来たよあの星に天空図には載っていないよ

あの星は宙の海図の指し示す天上の芯凍らせている

海に降る雨や潮騒、桜貝 まだ見ぬ丘に咲く花のこと

紅海の香油のような金色の凪の海見る水夫も火夫も

夕風も夜風も夏の甲板で誰かが歌っている遠国の歌

夜の船、南十字が導けば心は奔る帆柱の風

海溝で澪で岩場で見失う 細く傾く帆柱がある

生き難いこの世を生きる空しさに星の海図を開いてみたよ

これがもう最後と思う航海に連れて行きます鸚鵡と烏

座礁する船の傾き、真二つの裂けた心の血だらけの船

夕闇に横顔見せて金管や木管の人、席に着くデッキ

僕たちの救命ボート降ろされて夕焼けてゆく死のシルエット

海に降る雨が走って海の果て水平線の虹となるまで

潮風に吹かれて立っている船医、イルカの海のノイズ集める

トビウオが付いてくるからこの船の行く先々に海鳥の島

水夫たち清しき朝漕ぐオール 小舟に乗って行く無人島

波が見え水夫のオール流れ来てやがて小舟も綱も流れて

春の雪、驟雨、小さな船に降り 海の楽器のような風吹き

一生を海図もたない旅をして海に降ります珊瑚の粒子

夏の夜、冬の夜明けの海の色 水が燿めく真珠色して

波の音、連続あるいは不連続 戦士休息する波の音

夜明けには茂る葉蔭に一艘の小舟を隠す海人の村

海に生き海に死ぬ人さびしさは限りなくとも海はゆりかご

双魚棲む大陸棚の窪みにはアトランティスの隕石の跡

曽祖父の航海日誌は燃え尽きた海の記憶の一章匿す

ここに包んできたのはあなたへの愛 でも引用禁止です

星空のプテラノドンに出逢ったら 虹の卵をみごもっていた

わからないのは○○だから 言ってしまえば簡単を舌で包んで転がした賽

つつまれて眠る幸福 まどろみに千の蝶々通う四阿(あづまや)

雪が包んでいるのは橋 雪解け水と林の情景

恐竜の卵が孵る夢を見る 冬の街にも虹は生まれる

最初から鋤鍬にすればいいのに 刀なら鞘におさめて

大根でも洗ってなさいご城下の城下鰈 川霧がつつむ朝

野兎が跳んでいるからもうこれはつつみきれない歓喜の季節

丹頂の朱色に風の蓮華微笑 いつか夕陽につつまれていた

梱包し箱詰めの便届けようダンボールだから中は見えない

透明な卵がもしもあったなら 私は卵にはなれません

突然に子の命奪う終り来る 薫風に鯉幟無き五月の矢車

などという悪夢を見たり子は笑みて花野を カタカタはカタカタと鳴る

白馬童子、「月光仮面」を知っている?夕ぐれの路地で聞く「怪傑ハリマオ」

洞窟の奥の地底瑚 水脈の何処より来て鳴らす水琴 

地下水の音聴く町の底深く 酒造会社の地下伝う音

でんでんむしまいまいつぶりかたつむり陸生巻貝、若葉食む音

蛙、蛇、鰐、棲む河に雨が降る 雨のアマゾン昼の遠雷

春の日の地下水の音、武蔵野の機関区最後のトンネルの

その殻の内側からもつつく音 やがてあなたのヒナが生まれる

桃、杏、さくらんぼうの実るころ虹の子どもの孔雀の産声

竹林を驟雨過ぎ行く暁に雉子鳴くゆえに明日は善き事

雨の町、鈴鳴るように初燕 燕が飛べば美しい夏

バタァ溶けジュワと焼ける匂いして 今が檸檬を絞り込む瞬間

鎖曳く犬がいるからチャリチャリと鎖鳴るから引きずる世界

起動音、受信する音 機能する音はしずかに充ちて来る潮

魚眠り海草眠り貝眠り海辺はあさき春のトレモロ

海沿いの旧街道の宿場町 鶯が鳴く酒舗の梅林 

洋上を遥か風立ち 飛べざればヤンバルクイナは啼くばかり

明日まだ生まれない風が痛みに堪えて生まれてくるよ

千年の時を流れてきた風のその音を聴く風過ぎる音

剥落は音なく目にも見えなくていつか私の全てとなって 

瀬戸内のポンポン船の船止まり 潮待ち船を洗うさざなみ 

海と砂、水の記憶のたどりゆく指の向こうはすべて水色 

虹を呼ぶ始祖鳥の子は虹を呼ぶだって迎えに来てねいつかね 

起動音だって思った不死鳥が宙の故郷めざし翔ぶ音

石たちがお喋りしているカワラヒワ蝦夷山鳥のように日溜りで

ひとすじの血をもて繋がる雛の声雛の羽ばたき殻が破れて 

池の面に龍頭鷁首の船浮かべ桜かざして舞を舞う光源氏に楽奏じよう 

管弦と詩歌の他に用もなき春の夕べは音もなく暮れ 

竹群に雪吹き付けて過ぎる頃 春の音立て流れる清水

禽獣はなべて楽しむ春の日は若草を焼く草炎える音

十年後、群れを離れた黄金の牙を持つ象 墓場に戻る

夜の風、月光の海、難破船 十年後の波打つ渚

生きてゆくことが大切 十年後、私という軽いコークス

殺人の事件現場の十年後 満月なんか美しくない

そういえば 青海原のポセイドン 深海の愛届ける明日

そういえば鶯の来て鳴く梅林 谷保天神の石段上れば

鶯のささ鳴き聞けば春は来て 紅梅色の朝も始まる

ある時は浦島太郎ある時は花咲か爺さん夢の種蒔き

海亀を苛めた「村の子その一」の××年後の舞台の煙

足枷も手枷もあらぬ此処ぞ知る水昏き世にも薄あかりさす 

春の日の鞦韆ゆれて雲飛べば馬頭琴鳴る西域の風

焼き蟹の赤き甲羅と牡丹雪 尾張名古屋の望郷の宴

めひかりってどんな魚なんだろう海を歌えば少年H

砂浜の松に忘れた衣なら汚れ破れて潮騒ばかり

薬ありて生きられるなら薬ある幸福思い生きて楽しむ 

鎌倉の由比が浜まで来てみれば 実朝出帆 茜射す浜 

鎌倉の海山抜ける切通し 広き海より愛(かな)しき心花 野

なにかしら真実疲れた思いあり花野を歩く馬を羨む

今はもうただ独り在る心にて日の暮れがたの坂くだりゆく

わたくしが雨であるなら弾かれて草の葉つたう雨の

雪が降るかもしれないとい言っている ユキノシタは緑の薬草

爆心地グランド・ゼロの記憶より無花果の夕べ滴る乳の

鬱兆す雨期の森には幽かながら杳い遥かな麝香の匂い  

知らないでいるのはいつも一人だけ鴉が運ぶ巣の枝一枝

ねぇ起きて、起きて私の相手をして私の猫は待ちきれません

いつか来るはずの約束、いつか来るはずのその人ゴドーを待ちながら

明日の朝だあれもいない校庭に葉っぱ生やした木に似た鳥が

フェニックス大きくなって前庭の大部分さえ覆い尽くすほど

そういえば誓ったはずだ学校の夾竹桃が見ていたはずだ

溜息と絶望歌うことのない夏が来るのね白いサルスベリ

まどろみの時間が貴女を癒すよう祈っています 温かいね 雨 

すべて終り、もう何もないと歩く時、道にはツツジ炎え始めている

「亡き名聞く春や三年の生き別れ」丈草の句の中の人影

燕の巣、薔薇色の空 雲焼けて螺旋階段の明治の旅館  

重量を預けてゆらりゆらゆらと象の花子は木洩れ日の中

井の頭公園水も木も光る 50年間鼻揺らす象

クヌギ・ナラ光る小径を草笛が 誰かの吹いている「グリーン・スリーブス」

きらめいて湖面はボート浮かべている 水鳥幾羽午睡する森

山紫陽花、牡丹、芍薬、百日紅 梔子パオパオ熟睡する象

井の頭公園の象、象の目がまどろんでいる 恒河沙の夢  

お釈迦様 象の花子が行きますよ もうすぐ貴方の菩提樹の下  
ふるさとの涅槃の釈迦の寺に立つ樟の大樹の夢の千年  

やがてゆく菩薩、観音、如来にて朝陽、夕陽の石窟寺院  

眠る象、眠る釈迦無二 菩提樹はいのち養う至福の眠り  

微笑んでいるお地蔵さん前垂れの赤い地蔵が蝶とまらせる  

紫陽花も川のほとりに咲く道の九道の辻の地蔵公園  

孫の手を引いて通っている人の地蔵に花を届ける人の  

鯉を見てとりどりに咲く花を見て公園通りの日が暮れるまで 
enternet「原人の海図」2001年以降
首の無い馬が歩くよ水無月の手紙を待っている蛇使い

水無月の雨の青さよアジサイの紫翳る雨の青さよ

病み疲れ病み呆けてもいる花びらが水無月の文になりたいという 

まだ雨は降っていますか 雨の日は痛む右手をどうしていますか

雨降れば小さき渦のえごの花 流れて消えて水無月の川 

命には命の水が必要です 葦、葭原に 鷺、カイツブリ 

手品師の帽子の陰で鳩が言う 影も形も無い鳩なんだぜ 

炎天にやすらう木陰なき蝶が身をよこたえる紫陽花のもと 

夏の雪ゆうべ降るかと思うまで白き花びら散る木陰には 

木の陰に蟻の行列見つけたり蟻が向かっている奈落あり 

「二百年後に最高の音を出す」 ヴァイオリンは夢を見ている

百年後私は来る千年後あなたに会える 今かも知れない

百年後千年のちも、さがそうよ 朝の露に濡れる蛍草

ももとせもちとせもひとを待つゆえに人待つ姿残す渚に

いつまでも愛しているし待っている海の果てには夕陽が沈む

永遠の愛を誓ったわけじゃない ただ好きだった水の透明

百年の恋より恋を焼き尽くす恋してみたく夏の終わりは

千年の時超え君に逢うために生まれてきたと雨月の虚言

吉野道・熊野古道 いにしえも今も変らぬ蝉しぐれ降る

思い出せ君くる夜の足音を千年恋いて待ちわびる蛇

うばたまの刻すごす身の朝霧に草露にぬれ帰る武蔵野

遠く来て体温つたえ息はてし 瑠璃色の羽ふるわせながら

海亀が卵を産むよ泣きながら 潮騒が呼ぶ海へ帰るよ

浦島を乗せた海亀 月の夜人魚と遊ぶ僕は海亀

さぁもう言い訳もできないくらい時間一杯とうとう告白しなけりゃならない

だけどこれが難しいのさ 百年も君を恋していたなんて言えやしない

ニュートリノ心に降れば眠れない夜のあなたを連れ去る銀河

千年の愉楽極めて逝くゆえにもう怖くない一人で行ける

みほとけにも神にも用はありませぬ百年後にも一人でもいい

雨や風、降る雪ならば信じます レースのように薄い雪でも

百年の愛と孤独は裏あわせ葉脈のぼる夏のソリトン

求めなさい霞ヶ浦の面積を 百年後も帆船浮かべ

その二人偕老同穴の誓いする 土星の環のような空隙

カッシーニ、その空隙は誰のもの 愛のためこそディスタンスはあり 

夏来れば月見る月は野火止の水に映りて厨子にも入らず

夏の恋 続きはあらず野薊の緑濃くなる図式通りに

夏木立涼しき影を野の果てに水満々と図面の湖

夏木立、ツクツクボウシ、野の仏 水清き里、厨子王の里

白き蘭あなたのことだ満ちてくる記憶の中に射す晩夏光

夏雲のゆきてかえらぬ夕暮れを香枦園浜から立ちてくる風

風よどむ日の匂いがあるとあなたは言う 海の匂いを伝える手紙 

帰ろうか 少し疲れてきた私 今、故郷の空の誘惑 

菜の花が海までつづく道をゆく 海辺の道は潮騒の道

黄昏の稜線見れば思い出す 母の笑顔や庭の打ち水

故郷と言ったら何を思いだす 光る海とか薔薇色の海 

私の故郷なんて無いのかも あるいは幾つもあるかもしれない

故郷は青い海です鮮やかな それから鉛色した海も

故郷に此処に家族は集うけれどあなたがいない 母のいない夏

風鈴は土の風鈴 その塀も朽ちかけている土塀 椿の

椿がゆれ椿の影がゆれている 土塀に夕日、掘割の水

海辺には海辺の墓地が 故郷に私を待つ花の咲く道 

<濡れているのは私 ガラス越しではない雨の秋>

瑠璃、青玉、翡翠、水晶、硝子体 ルネ・ラリックの硝子の小壜

ぎやまんに金魚浮かべて芥子ゆれて、阿片の誘う夢幻極楽

室内の硝子の床の下見れば錦の鯉も泳ぐ悪趣味

この空の見えない玻璃を突き抜けてあなたの鳥が飛んでゆく秋

あの夏の焦熱地獄一本の硝子の壜に立つきのこ雲

硝子溶け鉄筋が溶け人が溶け街は焦熱地獄 向日葵

向日葵は焦げ傾きて日静か頭上に割れるガラスの太陽

断頭台そのギロチンの露と消えるガラスのように繊い血脈

血は血にて贖うものを血の樽を硝子一個に換えて携う

血の色の葡萄酒色の硝子壷 一族全て死に絶えながら

こんなにもきれいな虹を夏空の東の空の七色硝子

真実は誰にも見えず明かされずガラスの兎耳垂れている

太陽を憎んだサティ窓硝子つたう雨だけ愛したサティ

ジムノペディ、グノシェンヌ、三つの夜想曲 硝子越しに見る裏庭の雨

夜がきて電車の窓に見えるのはあの人が住む遠い街の灯

城の奥、鏡の部屋に使われた硝子職人生き埋めの森

死が染めているのだろうか夢硝子 黄昏れてゆく窓の夕映え

薔薇・菫・オリーブ・檸檬・黄昏が硝子に射した夏の花束

硝子窓つたう水滴、雨のしずく窓に映っている灯と私

この窓も窓の硝子もカーテンも古き佳き日の忘れ物でしょう

終電車レール軋ませ走るから疲れた男もいる硝子窓

夜明け前、その茄子紺の空の下 中村豆腐の硝子戸が開く

その人に夕べの愁いあるらしき うすむらさきの硝子の埃

見ていたわ焚き火が消えたあの庭と硝子の破片のような夕映え

高熱にうなされながら死んだのねステンドグラスの百合と黒薔薇

熱い熱い炎える夕陽の紅の運河の街の硝子工房

それはあのガラスの靴のお話の燃えないゴミになった結末

クセナキス ホロス、エヴァリアリ、ノモス・ガンマ曇り硝子のような音楽

<雪の夜にランタン赤き窓ありて 若き主人の古美術の店>

退屈は夢見る硝子 ベネチアの、ローマの酒盃に注ぐ葡萄酒

その街に大きな硝子窓があり 通りを歩く人と樹が見え

街路樹が桜並木の葉が触れる大きな硝子窓のレストランがあり

学生も子供を連れたお母さんものんびり歩いている硝子窓の向こう

食卓の硝子の小壜 紫の露草に似た花が一輪

薄藍色の煙草の煙微かにゆれ燐寸は消える硝子の灰皿

飼猫はそこに居たはずだったのに 硝子の函が骨壷となる

透き通る仄かに点るペルシアンブルーのような瞳、硝子の

烏羽玉の夢かと思う夢なれと冬の硝子のような愛恋

「聖なる樹、ゲルニカの樹よ 永遠に」 硝子のように砕ける地球

我はもや花のもとにて春死なん 満月、湖(うみ)に硝子のように

それからは死がすべてとなったから硝子戸を開け出てゆくゴースト

さびしくて心砕けて散る硝子うすくれないの焼き場の煙

野火炎えて心焼かれてさまよって何処の土に帰る 玻璃割れ

武蔵野は昔、飛火野 飛火野の野焼きしてみよ 硝子の狐

蓬莱の山に鶴立ち鶴帰る鶴来という町の大通りの硝子屋

破綻する破水破裂破砕破船破調 硝子の白鳥

黄昏の野をゆく水の逃げ水の硝子のようなきらめきの秋

その人のピアノの中のアラジンの魔法のランプ・硝子の小舟

海があるピアノの中に海がある硝子の小舟・水晶の舟

森には樹、海には魚 この街のガラスのような薄いニンゲン

焼けた砂、海辺の町にゆったりと時は流れて八月六日の硝子の太陽

ああ、とうとう思考回路は遮断され脳は硝子のように溶けるよ

今宵八時と限られてみればまた書く玻璃の歌 あはれ涼しき死もあるらむに

硝子のこと昔は瑠璃と言ったのね 瑠璃、玻璃、硝子  水の透明

影法師 影踏み遊び硝子戸に影が重なる死の影遊び

ピアノ聴くけだるき午后の瑠璃色のサティを聴けば夏の雪降る

あてもなく無益に時を徒に玻璃、瑠璃、硝子 九月の驟雨

鸚鵡にはおやすみなさいを教えよう硝子の小壜が涙壷とも

月蝕のほおずき姉の産褥の枕辺に硝子のトレー

胎内にあかるき光りともす子の指を映して液晶硝子

夏蝉は遠く遥かに死絶えて私を待つ瑠璃の一族

蛇が巻く後ろの森の夜の月 硝子のような眼の梟よ

飛騨高山、四国内子町の和蝋燭 古い硝子戸開ければ燈る

秋の旅 古き湯宿の硝子窓、瑠璃紺青の海と白波

「出部屋」には産婦が抱く子が眠る硝子を染める海の夕焼け

海が凪ぎ月光があり炎えつきた硝子成分のような心音

いいえまだ人生のプリズムのその一面しか知らなかったの

太陽を私は集めているのです この集光器の午后の太陽

悪徳の旗が靡いておりました背徳もまた硝子の仮面に

熱病に曇る瞳に黒天使 薔薇をかざして硝子のランプ

火の髪の火の飲食(おんじき)の弱法師 夏来ればニンゲンを返せと

もの憂くて倦んで疲れて死にたくて心の奥の硝子砕けて

野火もえてまた野火もえて身は焼けて瑠璃の仮面の砕けて落ちて

天翔ける天使が私に言いました硝子をお前に与える野を焼け

詩と音楽、珍味佳肴につきものの二つも盛って硝子の器

ボローニャの腸詰、マラガの干し葡萄、海老も冷たく硝子の大皿

難題は遡っても玻璃に映る残照のような当主の浪費

山海の珍味蒐めて還暦の馳走配って血潮の玻璃皿

露西亜からは硝子の壷とサモワール思い出だけを帰国の友に

火のように淋しがってるあなたには硝子の猫や白梟を

水槽にメダカ泳げば透明な硝子に水藻ゆれて夏来る

発作以来人が変ったようになり硝子の水盤には睡蓮を

憂愁・苦悩・絶望・悲惨・呪詛・傲慢あなたが見ていたのは万華鏡

一冊の書物のように傍に置く 氷のような硝子の文鎮

何という美しさだろう硝子より星より水は涼しく湧いて

街道の中心にして馬留めて清水を汲んだ硝子井の井戸

カナリヤは死んでしまった坑道の空気、硝子のように吸い込み

この水を空の真中に汲み上げる硝子のような刻があること

その恋も額の熱も奪うためガラスに氷、水には花を

舟歌ははるかに川を下るから硝子の舟も泥の小舟も

終戦の直後には居た傷病兵 傷痍軍人義眼の兵士

笛吹いて少年少女鼓笛隊ガラスの仮面がパレードをする

焼かれたる金の野山の明烏 再び告げよ瑠璃の王国

遠く来て呼べど答えず谺せず玻璃の湖面に白鳥一羽

沈丁花、梔子、白きえごの花 花影ゆれる瑠璃色の日没

見殺しの父と母との杜子春の銀の硝子に似る蜘蛛の糸

遠火事を見ている夜の硝子窓 燃えればいいと誰かが言った

炎上をしている三島屋火薬店 冬の花火が硝子を揺らす

火の壷も炎の硝子瓶もある ただ着火する動機薄弱

青空の硝子のような輝きの真中を進む黒の一隊

卑弥呼病めば卑弥呼の国もまた病んで瑠璃色の海もまた病む

今日もまた夢を見ている夢見ればあなたに逢える 硝子の狐

茫々と風は海辺の村に吹く 人をどうして殺しちゃならぬ

海辺から海辺の村へさすらって 吹雪じんじん背黒のかもめ 

打ち棄てて人はいずこの空の下 ゆらゆら赤い赤い夕焼け

鰊来て鯖きて人もきた村の砂押し上げる波のどどんこ

難破船、浜辺にあれば蟹遊び子供も遊ぶきらきらひかる 

人呑んで船も沈めて波ざんぶざんぶざんぶと渚に寄せる

眠れない一億の夜と人を抱き 地球はウオーン回り続ける

今日今から?夜明けの珈琲でもいかが 蝉もみんみん鳴き出すでしょう

虚無の星、虚無の宇宙が大好きよ 夢が現実、現実が夢

この星のどこかに必ずいるだろう 反世界にも雨のかたつむり

などを序章に詞書に ぽわーんぽわーん夢世界地球

しんしんと雪は降るべし降り積もる 天上の川降りくる峰に

ぬらりひょんどこに行ったかぬらりひょん背中に負んぶしていませんか

君が鳴けばじんじじんじとかなしみも湧いてくるから八月の蝉

桜鯛、瀬戸の小島の海水の匂いしているピチピチ尾ひれ

異界には異界の音がするだろうゴーストたちのしゅわり衣擦れ

洞窟に潮満ち潮引きさらさらと波の音だけ聞こえ天心

サリサリとセロリを食めば、朝採りの胡瓜、トマトも浮かぶ井戸水

ぎらぎらと太陽が照る油照り 狐が待っている曼殊沙華

夕焼けよ何を弔う何を泣く 海に私の失くしたゆらゆら

夕ぐれはしずかに来たり花びらはしんしんひらく夕顔の花 

さようなら夜明け朝焼け海ほうずき夏の海辺のたんたん赤蟹

するすると器用に網を繕って、漁師の玄さんまた来いと言う

水音がしている 音は山奥の水車ぐるるん回す水音 

この水が黄に染まるとも岩洗う水はゆたかな中国の水 

クレゾールの匂いしていた洗面器 呼吸停止の死児運ばれる 

洗っても洗っても洗っても拭えない記憶の夏の神の指先 

婚約は月燭の夜 かぐや姫略奪委員会が留守の間に

シャボン玉消えるみたいに消えた虹 未来の空の涼しい地球

きっとこの石そっくりの魚もいて 石のふりして眠っているね 

来世紀、私はどこにもおりません そう言っていた陽だまりの猫

love love love 薔薇も珊瑚もサボテンも明日の夢を見ているだろう

夜明けにはめざめる魚 昨日見た夢がリアルで怖かったこと

《mにはね砂漠のキツネいないけどバオバブだってコワクアリマセン》

ぐんにゃりと木は立つサンレミ療養院 南を離れ北を恋う人

荒れ狂う空の下にも麦畑 ヒース花咲く故郷へ向かう 

烏の群れ飛ぶ麦畑 黄金の穂を笑う嘴太

麦畑、ゴッホの烏飛んでいる 輝く穂波、ゆれる麦の穂 

ゴーギャンが真犯人だという噂 ゴッホの耳を切ってタヒチへ 

横顔の黒衣のひとを凝視めればいつか降りだす八月の雨 

逆光の中に立つ人みていれば振り向いた顔 死者である人 

むごたらしい傷癒えることなくてその傷口の蛆を見た今日 

烏羽玉の夜に目覚めて儚ければヴァイオリン・ソナタのための第二楽章 

烏羽玉の夜を過ごす身の朝霧に草露に濡れ帰る武蔵野 

しんしんと雪降り積もる夜の窓 夜の子供が待つサンタさん 

クリスマスツリーを肩に歩く人 ピエール&シベールの樅 

地下街にホーキを持った魔女がいる雪も降らない降誕祭前夜(旧作) 

聖夜にはいったい何が起こるんだ南極ではもう氷が溶ける 

クリスマス祝う国ありクリスマス祝わぬ国あり暑いね冬も 

地上には星が燿めく窓があり 雪しんしんと聖夜の祈り 

今日までは病気ではない明日からやるせないほど狂って虹に

雨音が微かになれば聞こえますサビシイカナシイムナシイと虫

描きかけのcanbas残し逝った人 その空白に映る鳥影 

生まれざる花も生まれむ風たちは未生の夢を語り始める 

苦しくて林檎倉庫に住いしたまだ若い日の素敵な歌人(斎藤史さん) 

降誕祭 林檎の蜜が充ちるころ 素裸の木と真裸の基督すっぴんの人

クロッカスやリボンで飾るスイートピーマラガの葡萄も素敵な晩餐

ガラパゴス諸島の象亀 イグアナも重なりあって海を見ている

いつまでも濡れていたのは瑠璃色の鳥の飛翔を信じていたから

いつのまにか盗人萩は留守中に盗難予防のシステム解除

いつだってぬれるナイフはルキーニにトート閣下の死神の犠牲者

いつだってぬれる眼差しルシファーの遠き闇から死者呼ぶワルツ

いつまでも温もりありて留守の間も年越し冬のシクラメン咲け 

一度くらい「濡れ手で粟」が累損の途方もあらぬ死に在庫の原因

生きていた沼には残ったループがあり飛べない鳥が死んだ夜明けに  

いつよりか鵺(ぬえ)にすら似る類人猿 時には夢を死ぬほど抱(いだ)け 

色と音塗りこめているルドンの薔薇 遠く氷雨の降るシスティン礼拝堂  

石の影 ヌーヴォロマンの瑠璃の影 時が死を超え光りを放つ

いつまでも脱いされない累々と時は無惨に屍骸を重ね  

石蹴りと塗り絵とロウセキ留守番の年子に生まれた姉妹の遊び

いつからか抜きつ抜かれつルーカスの遠い海辺のシーサイドゲーム

今は夢ぬばたまの夢 瑠璃色の時が流れて死に至る夢  

いつの日も温もりありて累代の墓の隣りの紫苑の花群

抱きあう濡れる花びら瑠璃色の通り魔、雨の新宿御苑  

生き生きと温もりありて瑠璃色の蜥蜴の子ども死にしばかりに

居場所なき温もりのなき累卵の都会の危機は真珠抱くよう 

いつ雨は濡らして降るの累代の永久の眠りに死者の眠りに  

いつまでも泥濘(ぬかるみ)の中 流刑地の永遠(とことわ)の夢 死せるマンモス

今を生きる泥濘のなか瑠璃鳥の透明の死は死よりも甘く  

いままでの沼地に生まれた瑠璃色の鳥が探している死に場所はどこ  

いつからか泥濘は消え瑠離色の鳥の飛翔を死が待っている

足跡をみんな消したら死にましょうマイマイツブリノヒカルアシアト 

シャアが撃つ致命傷部を避けて撃つメガ・バズーカ・ランチャーで撃つ 

ガザX光の中に消滅す 幾万の影ヒトガタノカゲ 

破壊者は優しい顔をしていますメロウなサウンド得意なミュージシャン  

クレッシェンド、デクレッシェンド、森の奥 野ばらは水を 眠れひととき

グレゴール・ザムザが死ねばグレゴール・ザムザに似ている虫もまた死ぬ

カフカ作『断食芸人』の台詞<タベタイモノガナカッタダケデス>

「ヒロシマノコトハヤムヲエナカッタ」と語りし天皇も逝きて八月 

『モシカシタラコノテデコロシタノカモシレナイ』などと思わずすめろぎゆえに 

しばらくは桜の夢を見たかしら桜伐られたラネ―フスカヤ夫人 

昨夜いいお芝居を観たらしい 幸福ファントム、「オペラ座の怪人」 

「ニンゲントシテモシンヨウデキナイ」と言われているよ夏の掲示板 

機関車は水を飲んでる機関区の給水基地で ユキドマリデス 

アクサンテギュ、アクサングレーブ、ウムラウト、アクサンシルコンフレクス、アンダーライン、ピリオド 

『マルチニック島、蛇使い』「震えるピン」のアンドレ・ブルトン

<またそれは分散和音のようで窓から見る海の風景>

神々の黄昏、ジークフリート、鳥の歌 サウスカロライナでは聴かないな 

『偶然の音楽』からのファンなんだ エージェントには電話を入れて 

人生は意味を為さないナンセンス ミラ・ソルヴィ―ノの顔が貼られて 

熊笹の笹の葉みたいにあっさりと バッハ「シャコンヌ」のヴァイオリン 

【シーン、Z】レディ・イン・ザ・ダークのある意味じゃ最も小粋で大事な場面だ

「アンチェインド・メロディ」流れ時代は流れ優しい時間も流れていった 

遮光布使えば簡単にできるアラビアンナイト風ハードマスクで 

感情を見せて撮るなら二つだけ リアルの意味を教えてくれよ 

リアルなど後生大事にする人の似非宗教的スーパーリアリズム

オペラ座の梁で首吊る道化師は存在しないシネマ・パラダイス 

ギロチンに架けられているフランス王ルイ十六世の日記を愛す 

ゼフェッリの「空騒ぎ」とかP・ブルックの「真夏の夜の夢」軽い悲喜劇

ベルリンで面白いからブレヒトがオモシロイとは限らないだろ 

サポニンの血液サラサラにする効果 ホワイトアスパラガスの苦味成分

カメラマンが何か言っていたライティング効果がなんとか仁王立ちでさ

ケン・ヒル版「オペラ座の怪人」観てみたいロイド・ウエ―バー版には倦きたから 

「バロックは歪んだ真珠」三月の舞台 主催者は歪んだ春の震災の街

皇后は旅する皇后どこまでもこの世の外へ シシィの鴎

<狂気の王ルードヴィッヒは湖に 湖に霧たちこめている> 

双頭の鷲の紋章掲げてもハプスプルクの灯消える 

<ルドルフとマリー・ヴェッェラ 銃声が雪のマイヤーリンクに響き> 

美しいノイシュバンシュタイン城、白鳥城 バイエルン王ルードヴィッヒの夢の形象

<イザナギはヨモツシコメに追われたる ヨモツヒラサカ桃投げて去る> 

「ピラミッド・スフィンクスには秘密がある」おいてけぼりの砂漠の狐 

<カドモスを祖としラグダコス王家によって統治される古の夢ひらく王国> 

盲目のオイディプスが現れる従者にその手引かれ闇から 

<地二住マイ脚ノ数ノミ変化スル地ヲ這イ空飛ビ海オヨグスフィンクストハ如何ナルモノゾ>

スフィンクスの謎は解かれて都なるテバイは災厄より甦る

「華麗なるギャッツビー」そこに全身で優雅な破滅する人がいる 

その著書によればスコット・ジェラルド夫妻よりマーフィ夫妻こそ禁治産的 

才能もお金も浪費・乱費して一生パーティみたいに生きた 

真実の断片だけが残っている 存在すれば生きたことです 

作品の一つも世には評価されず 望みのままに遊び暮らした 

もしかするとそこはあなたの左耳 愉しい比喩や音楽のこと

ディアギレフがきっと嫌がる 最終の遊覧船の横波嫌う 

あの時代、のすたるじっくなあの時代 ハカナイユメのような時代だ 

スコットの妻のゼルダは美しい 一挙手一投足が芸術 

とはいってもゼルダは神経を病んでる 対岸で見る落日みたいに

落ちてゆく夕陽みたいにかなしくて 湖みたいにやさしかったね

『パーティのせいじゃないのよ お互いが好きだっただけ みんながみんな大好きだっただけ』

情熱を傾けていたジンセイにゲイジュツなんかじゃないジンセイに 

繊細な回転のよいその様子 一族だって徴みたいに

横着な反抗的な様子だが、ホントハタノシンデルンダその子供たちも 

夏に降る雪のサティを聴いたのは昨日の私、海を見ていた  

もう一度海が見たくて故郷にジェームズ山の廃家見たくて

ドメスティックなる夕暮のP.T.S.D患者という女優の胸の赤トンボ

スッタニパータ 常に気をつけ空なりと世界を観ぜよ死も超えんため

宇宙蛇タラリトゥラリ真夜垂れて銀の小雨を降らす晩夏だ

炎には還元炎と中性炎 攻めの炎と守りの炎 

末裔を任じた人の愚かさに コノヨハスべテユメトオモッタ

雪よりも白い表象 あの人が書いた文様 地の果てのランプ 

夏燕その巣汚して何をしてひとの軒先借りる身の上

ヒグラシは遥か彼方の森に鳴く 此処で泣くのはヒト/マダラボケ

花の影、未来恐ろしと一茶いう 未来怖くて眠れぬという

異人館売られて屋根の風見鶏 ひとりぼっちでくるくるまわる

晴れた日に永遠が見え 曇る日に何が見ます 街角の海

偏頭痛起こるときにはわかるのよ眩しい光に包まれるから

遠い蝉鳴いてるこの世の果てに立つ一本の樹が落とす病葉

眠りすぎ?眠らなさすぎ?どちらでも冷たい水ね指がよろこぶ

左から稲妻が来て引き裂いて疼かせて去る脳葉の森

先生が処方を変えたらしくってノンダラネムクナルクスリデス

雪の日を思い出します雪の日の酸っぱいような痛さが来ます

鏡には何でも映る城館も空も湖もあなたの夢も

もう私騙されないわ見せかけに 棘が刺さっている指見てる

美しい薔薇にも美しくない木にだって刺があること

さようなら私の地球、青い星 未来世紀にわたる虹立つ

この空の九億九千光年を 億光年の虹を渡るよ

さようなら手を振っているあの子はねポットにされた料理係さ

お城には何でもあった我儘な王子を愚かにするものならば

我儘な王子をとても甘やかし愚かにさせた家来たちもいた

王子さま野獣になった王子さま 優しい娘だけが救える

お城には何でもあった図書室も貝も名馬のたてがみ耀く琴も

崑崙の峰越えて来る風があり 西域を吹く青氷河の風 

地底瑚に棲む魚いつの頃よりか香木の森夢見て盲い

祝杯をあげよう君の新しい詩集のために宴開こう

もうやめよう涙も汗も嫌いだよ シーツに包んで棄てておしまい

鬱陶しい空も今月限りだよ 雨は絞って真夏の海へ

夕暮れの蝙蝠だれを探してる 行方不明の幼時の私

我儘も気ままもゆるしてくれたのは父さん母さん猫のガストン

いつかね いつかきっとね 捧げます 野獣になった王子のために

太陽が森の彼方のみずうみの透明な魚連れ出す頃さ

踊ろうよ歌おうよ遊ぼうよ生きている限り朝は来るから

読み書きも教わらないで育ったから全てが新鮮 伝説の王子

優しさが瞳の中にあるなんて湖よりも青いだなんて

怖かったあなたに逢えるそれまでの人の瞳は邪悪に見えて

だけどもう怖くないのさ瞳には優しさ、喜び、耀くひかり

「王子には読み書きよりも何よりも教えることが」マダム・ボンボン

恋すること愛することのよろこびを日が昇るとも日が沈むとも

王子様もう我儘はできませんよ いいんだベルがいるそれがすべてだ

魔女はもう森を出たんだ明日からは僕たちが陽で月になるんだ

「まだ森のあちらこちらに魔女がいて呪いが生きていて襲うだろう」

だとしても、もう恐れない 篝火を焚いて夜明けを待てば夜明けが

いつかは そういつかは そう信じて生きてきた いつかは・・・

未来って信じる心に生まれるよ そうだよ夜更けの森の梟

炯々と眼光らせ白梟 森の奥には野獣の王子

剥製の白鳥、螺鈿の琴、翡翠、碧玉、華麗な薄闇もあれ

現実さ、これは現実 存在は確かめなければ無いのだガストン

でも夢はこの現実の中にある それが解れば怖くないんだ

明日また君に逢えるね明日また秘密の森を探索しよう

お客様、ミセス・ポットやナプキンやみんなの心尽くしの馳走をどうぞ

哀れな奴、醜い奴と蔑まれ、悶え苦しみ王子は知った 

この世には大切なものがあることを それなしでは生きていけないものがあることを

見つけたよ たとえ醜く傷ついて病んでぼろぼろでも愛する愛を

そしてついに呪いは解けて我儘な王子は野獣の王子は 消えた

水よりも静かに時を刻む音、ユンハンス製目覚し時計  

金属のベルトの一部が歪んでる鈍い光沢、遺品の時計  

正確さ堅牢無比の野良時計、土佐の高知の安芸の村時計  

しっかりと時を報せて眠るのだ 旧家の時計は止まれば終り  

チクタクチクタク古時計、古さの中によさがありチクタクチクタク

この町の七十軒の古時計 ネジ巻き屋さんに任されている  

脚立持ち、修理具入れた鞄持ちネジ巻き歩く古時計の町  

茴香のウヰのかなしみ禍事の砂時計の砂降り続くよう  

宮殿のエカテリーナの孔雀時計 優雅な刻の証人でした  

太陽の百億倍の超新星 ちぢみを解けば花びら宇宙 

宇宙定数、その考えに誤りが アインシュタインの時の文字盤  

古楽器や古時計には何があるの 永遠という涼しい時間  

夢に来るあなたはいつでも悲しげでそれが何時でも気になっていた 

からすなぜ鳴くのからすは山に かあさん烏が子を呼ぶ時計  

やわらかなことばが響く夜がある 冷たい針のような月が出ている

その時もう十分な古時計 終焉すらも知らぬ眠りに  

気づかずに終ってしまっていたのだろう 逢魔が刻も二度と巡らず  

突然にさよならは来て大時計 百年経った空洞に鳴れ  

空洞に時は沈んでしまうから二度と鳴らない おじいさんの時計  

えごの木やサモワールかもしれないね 私にとっての古時計って

降り積もる雪より白い空白の領域に棲む獣かもしれない  

階段や坂道の多い街だから酒蔵も多い町だったから  

過ぎた日の後悔に似て海馬には沈澱してゆく時の残骸  

思い出の回転木馬の遊園地、長針の馬と短針の驢馬  

カリヨンの橋を渡れば見えてくる双瘤駱駝のような山並み

寺院では鐘を鳴らしてその鐘の聞こえるまでの町を保存する  

水時計、日時計、砂の時計あり 終身無言の歌を歌って  

江戸の鐘、ノートルダムの鐘の音、川面に春を告げていた音  

明治×年、形見の時計、懐中の銀の時計を遺し人逝く  

その翌年鉄道が来て時計塔も建ち海辺の町は菜の花の春

長屋門その片側は局舎になり時計塔から時報は町へ  

ドクドクと流れています血の半身 出血多量の柱時計です  

夕闇の蔵座敷には射の光 柱時計が鳴ったみたいです  

もう既に死に絶えている血の系図 人気ない夜軋む秒針  

お別れにもう一度だけゆっくりと螺旋階段上る日時計  

最終のバスは四時半 犬目宿本陣大黒柱の時計  

塩山の甘草屋敷 銅葺きの大屋根 樹々に触れて行くバス

遠ざかるバスが残した土埃 コスモス街道まだ日は暮れぬ

追分を陣馬街道曲がり行く西多摩に入るボンネットバス

猫バスもトトロの森も吹く風にセロ弾きのゴーシュにどうぞよろしく

花遍路、遍路の道のバス停に夏越の祭の日程張られ 

私の中にもバスが走ってる 最終バスかもしれないバスが

ひとり出かける日の駅前に浩平の好きなボンネットバス

犬目行きバスに揺られて四十分 君恋温泉今日は訪ねる  

本陣の道を歩けば土埃 四方津へ降りる最終のバス  

二本木行きバス終点のバス停の馬小屋の馬、留守番の馬  

塩山の甘草屋敷 銅葺きの大屋根近く春の三日月 

塩山は桃の花咲く桃源郷 大菩薩への道に陽あたる 

「二本木」行き れんげ、菜の花、桃の花 麓を走る一本の道 

道くんと裕子は一歳年違い 仲良く夕陽の庭で遊んだ

道くんの兄の哲ちゃん階段の途中の穴から顔出した奇妙な蛇をやっつけた

その蛇は黄色と黒の縞々でやまかがしだって誰かが言った

沙織ちゃん武ちゃん姉弟も引っ越して来ていっとき賑やかだった

引越しのその日は引越しトラックの後ろについて走っていたっけ

あの日から何年みんな大人になりサラリーマンやOLになり

もしかしたらあの街角であの道でローラースケートしている二人

どうしてるどうしてますかあの人は 今年の春に逝ってしまった

あの古い家族写真のあの人の思い出したわ旧姓醍醐

そう醍醐 桜、桜の花吹雪 枝垂桜を見残して逝く

西空に大きな月が今朝かかり聴こえてきたよ「サムシング」 

U2を聴いていた夜、BSの画面の向こうの闇のビートルズ 

海鳴りは遠い地の果て海の果て 地球は無事に回っているか 

しずかなるゆうすげびとは逝き秋は何事もなくすすきを揺らす

花の影、未来恐ろしと一茶言う 未来怖くて眠れぬと言う

異人館売られて屋根の風見鶏 ひとりぼっちでくるくるまわる

晴れた日に永遠が見え 曇る日に何が見ます 街角の海

クロッカスやリボンで飾るスイートピー マラガの葡萄も素敵な晩餐

ロングアンドワイディングロード旅は終ったのねジョージ・ハリスン亡くなる 

エリナーリグビー、ペニーレイン、ガール また氷雨降る冬の甲虫 

ゆうべ聴く冬の雷(いかずち)冬の雨 草木地下に眠る幸福

たいせつなあなたをなくしたあの日からたいせつな日がなくなりました

源氏が舞う 花の乱れの舞を舞う 雪月花、誰に散りゆく

カナダには雪が降るらし バンクーバーはマイナス三度

砂糖菓子崩れる魂は濡れて 晴れた空から降る

角砂糖詰めても詰めても残るなら砕いてしまえとは言えませぬ

レボリューション起こる起これば起こるなら 誰も緋文字の檄さえ書かず 

後の世の人には何と呼ばれよう 花火のような時代だとでも 

ビートルズ、ポールの百面相を見た あれは深夜の海外放送 

お祖父さんの丹精の薔薇 その薔薇を抱いた娘の大切な一日

透明の硝子の壜のその隙間 愛の隙間と誰かに見られ

空間の隙間もそして時間という見えないものの隙間も抱く

虚数時間はるかに超えて生きている夢とリアルの狭間を生きる

人間が人間だったことなんて時の空隙 束の間の夢

ひとときの夢ゆえ人の美しさ 一挙手一投足も幻

明日また生きているなら逢えるなら そのディスタンス埋めて逢おうね

夜は闇 闇はあなたが支配する 時の狭間を流星一つ

空間にその空白に命の尾引いて流れて消えてゆく星

優しくてただ優しくて優しくて青い地球に花咲くように

極月のその半ば過ぎ降誕祭近づく夜を 夜の間隙を

タイタンは探査するともカッシーニ計画既に老いつつあら

土星には土星の環があるように銀河は乳と蜜の河であるように

至福より未だ帰れず このまま死んでしまえば夢の波照間

せせらぎに大河に海に注ぐ川にブナの森から注ぐモルダウ

「太古の海」「盆の海」など話す時ジャック・マイヨール氏自殺の訃報

絵葉書のグラン・ブルーに百匹のイルカが描く海の曲線

一本の樹にとまる鳥 一枚の画布に描く空 その空の青 

森の香も清しき樫の木の舟も 二人の櫂も流されていた 

赤い月 鼓鳴る冬の公演の レダよあなたは官能の蛇

猫語など覚えてみてもしようがない 私の猫は死んでしまった

旋律ハソコデ膨ラミソコデ消エソコデ躓キソコデ泣クノダ 

ロマンスは秋の焚き火の火の色のあなたのためにだけ歌う歌 

偶然と幸運に期待いたしましょうモンテカルロで確率上げよ 

オリーブもマングローブも関係ないマンデンブローならちょっとある 

楕円ゆえ二つの焦点持っている答えも二つ人生の法則

虚数から虚数へ飛んでいる蝶の青虫ゲンキ葉をタベツクス

ハレーション残して去った夕暮が線を消し去るそんな時間に 

サファイヤの瞳をした猫だヒマラヤン ロマンティックな夏のゆうぐれ

カビリアの深い谷間に咲く百合もセントへレナのナポレオンの薔薇も 

音楽と言葉について話すとき死んでもいいほどきれいな夕焼け

砂漠には深淵の井戸 重力の届かぬ井戸のランボーの詩 

単純さ貧者の武器で唯一の貴族よりなお貴族的なる方法 

夢想から生れるものは倦怠で倦怠からは殺意が生まれる 

或いはまた倦怠よりも実直な働き蟻の集団自殺 

夢に生き夢に死ぬって言ったって誰にもそんなことできないよ 

旅人は『旅の重さ』を読みました 遍路の旅は夢に死す旅 

秋風を今朝は感じる秋風の朝になったよ八月五日

そういえば七日は立秋 秋が来る暦の上にも 日暮しさみし

蜘蛛の峰、蜘蛛の巣森の蜘蛛の糸、野の蓑虫も涅槃に入りぬ

苦しんでもがいてのたうつ身があれど 涅槃の釈迦は菩提樹の下

薔薇色の東京湾の憂愁よ 空っ風吹く気荒な街よ  

東京の一郭に住み東京を知らないでいる沿線暮らし  

商店街、駅前通り、遊歩道、日々通る道に出会う人たち  

境内の鳩に餌を撒くお婆さん八坂神社も杜の武蔵野  

野火止のほとりに立てば鴨、子鷺、「江戸街道」に交叉する川

季節には季節の花が咲く町のサルスベリ咲く夏の日想う

素裸の木々は冬陽を浴びながら東京もいま春を待つ日々

曇りなく晴れた東京 人工の渚に遊ぶヤドカリの群れ  

蜘蛛の巣も蟻の巣もあり蜂の巣になるかもしれない東京に住む

大風呂敷、後藤新平創る街、紫紺に濡れる東京の夜  

地下街の果てもまた地下 東京は重深度地下迷宮の森

円照寺、柏木右衛門佐頼季が拝領したれば右衛門桜 

柏木は西新宿と改名し桜訪ねる人も少なく

大江戸は「大江戸線」にのみ残り春曙の空に紛るる

六本木麻布の高台、荷風氏の偏奇館なる住居もあった

台東区入谷・千束、龍泉寺 樋口一葉住いした町

菊坂町、龍泉寺町、大江戸の下町 井戸に清水湧く町

大方は荒物雑貨、賃仕事、駄菓子商う一葉の家

江戸の華 火事と喧嘩とお役者と、江戸の歌舞伎は都の桜

桃山風、三層の屋根、木挽町歌舞伎座なれば銀座にも江戸

六代目、十一代目、誰其れと、金春座など亦寄贈する勢い

芝居茶屋、芝居神社も華やかに灯りを燈す遊べ楽鳴れ

「今日は桜か明日は月か」「春は朧でご縁日」月を見、花を見、江戸の享楽

人間が怖くなることありません?私は今とても怖いの

春真昼、他人が解らなくなって 旧友以外は怖くなってて

もう誰も誰ともつきあいたくないと2002年春の思いに

眩しくて明日の午後を見られない 逆光照らす古刹の仏

観音寺、浄光心寺、西の海、紫雲出半島包む夕光(かげ)

永遠をただ待つ亀がいてもいい セント・ジョージはガラパゴスで待つ  

天蓋を支えて亀は永遠の孤独の賢者 風に吹かれて  

海は待つ海底(うなぞこ)杳く藻のそよぐ竜宮の亀、浦島を待つ  

紫雲出山、仁尾の海辺に佇めば太郎の亀も来る燧灘  

海亀が卵を産むよ泣きながら潮騒が呼ぶ海へ帰るよ  

浦島を乗せた海亀、月の夜 人魚と遊ぶ僕は海亀

あぁ、鯨 鯨のように海に出て大海原の風になりたい

日振り島、魚島、燧灘の島 鯨の泳ぐ海だった瀬戸内海

鯛網の盛んな頃の燧灘 マッコウクジラもレイゴンもいた

鯨獲る漁師の顔も輝いて鯨来る海、幸いの海  

奉納の額に描かれた出漁図 海亀、スナメリ、銛で突く鯨

その後の漁業衰退する海の遥か洋上鯨見る夢

鯨には漁業探知機付けられて深海調査船の追跡受けて

またいつか帰っておいでレイゴンと呼ばれたスナメリそして鯨も  

鯨にもイルカにもある中枢を人間もまた持つということ

発信は遥か南極凍る海 鯨の言葉は虹の変数

海豚から鯨へ 今日も元気かい 南氷洋に星が墜ちたよ

存在の中心地点であることに気づき始めた鯨が出てきた

あるものは空に昇ってあるものは海に潜った 僕たち、鯨

仲間たち海に潜った君たちが 鯨と呼ばれていることを知る

研究の成果を語りあうように、マッコウクジラ挨拶をする

観測船Uの船尾と船首にはゴンドウクジラ先導をする

鯨骨や駱駝の骨で彫った亀・梟のその透かしの部分

深海魚、春の渚に横たわる 渚の砂に葬られるという  

先週は鯨が死んだ入り江があり海豚も死んだ 四月の渚

さようなら黄金の月が出ています 春の渚の蛤、浅蜊

平家蟹、怨み忘れぬ月の夜、凪渡る海、泣き砂の海

船玉を祀った船の船尾にも魚群監視機みたいな鴎 

春だから海は薔薇色、その空も水平線も幸福の色

雪の道、海まで続く北国の海辺の藁や板覆いの小屋

北国は雪と氷に閉ざされて 春待つという時化の海という

瀬戸内のぽんぽん船はないけれど夕凪の海、金の巻き砂

瀬戸内の海見る座敷、七卿を匿っていた離れの石蕗

麦の穂が風にゆれている畑道 浅き鞍部に住む八百戸

真浦港、尾浦港には繋留中の出航を待つ新造の船

水仙の自生する谷、百合が端(はな)純友伝説百合若伝説

いずこにも行けぬ心の吹き溜まり廊下の隅に乾く酸漿

葉脈を血管走る酸漿を素枯れるままにおいて春も逝く

藩支藩、△△高迪が三女佑子の輿入れの朝

緋毛氈敷かれた道を導かれ △△祐子十七歳の白無垢

△△の娘の一人が嫁ぐ道 先祖に帰る婚と人は言う

仁尾の浜、太陽発電する浜に六基の風車、砂の描く波

風車って私は大好きなんだけどどうしてなのかそれがわからない

白い船見ていた岬 花が咲き風車が回る 最果てという

風車まわるよまわる晩年の父の記憶の風車まわる

その店の名前は「風車」阪急六甲の昔の駅舎降りてしばらく

異邦人観光客の来る街の アンネ・フランク隠す屋根裏

地の果てに回る風車は、まんまるのサンチョパンサが見上げる風車

ナウシカの風の谷にもありました風車と緑の谷の伝説

鳥の歌、風の心の草笛を鳴らして過ぎる風車の村で

火蜥蜴の這う道を来る旅人の背に覗いている風車 

風車といえばドンキホーテといえばサンチョパンサは怒るだろうか

森の騎士、海の男に守られて風車の町は千年夢む

太っちょのサンチョパンサが見上げてる青空そして風車の男  

サングラス越しに見る時万華鏡みたいに吹雪く桜花びら

倒される時に外したサングラス桜降る日の光の中に

さくらにはさくらの理由あるらしく道避けて通る兄のサングラス

その切手剥がれてしまう七桁区分機で 大事に選んだ記念の図柄

特別な郵便物は手区分解束し切手剥落させないように  

消印の切手の位置にも気をつけて高速回転する押印機  

その町の局舎になった長屋門 入り口に立つまあるいポスト  

代々の局長の趣味 鶴を飼う その鶴の絵の記念の切手

負の遺産一掃すると親会社 切手市場に流れる噂    

井戸端にこおろぎ一匹鳴いていた 冷たい水はいつも湧いていた

私が虫だったなら虫として虫の一生地道に生きて  

でもきっと私は生意気な虫でキリギリスより惨めに終るよ

気がついた頃には虫の一生は大方終っていたりして晩秋  

飢餓線上這ってゆく虫一列になって冬へと向かって歩く

五右衛門がとうとう捕まり行く河原 縄を打たれて馬の背に乗り

掌が海ならその手の線は海溝と言えるだろうか情深きその一族のDNA

てのひらに海図描かれてあるならば見知らぬ海の底の遥けさ

地図帳の夢のかけらのような虹 死の瞬間にまた見るという 

翼のない天使が一人降り立って京都木屋町あたりを歩く  

無力って言えば阿弥陀さまに願う他力本願の宗教思う  

救済は仏が遣わす船に乗り 阿弥陀如来の西方浄土  

艱難も辛苦も如何なる災いもすべてを祈りが救いに変えると  

背景の山から射した西日受け開け放たれる寺院の蔀  

後光射す仏三体、涅槃の釈迦、阿弥陀如来の来迎図絵も  

自力といい他力というも同じ謂 自他一致して虚空の散華  

畦道に蛙が鳴いて雨降って無力のおたまじゃくしが育つ  

人間もおたまじゃくしが進化してこんなになったなれの果てかも  

無力って宇宙の力に委ねきりまかせて生きる大きなチカラ

焼け残る木仏の中に千躰の胎内仏を宿すみほとけ  

わらわらと蠢き虫は夏の野に命の粒となって飛び出す  

嫌われて愛されなくて虫たちはそれでも生きる 生きる虫けら

いいえ虫さん虫さんを虫けらなんて言うヒトの傲慢

青い空、青虫、虫は蝶になり夏の木蔭の花びらになる  

春死ねば春の心に秋死ねば秋の心の私だろうか  

逆縁もまた縁なれば親よりも子が先に行き幼きが老人よりも先逝くも春  

不条理の隙間に鐘の音が聞こえ 諸行無常と聞こえる雨月

古ぼけた埃を被っているピアノおばあちゃんの形見ね 

雨の日に聴こえる「モルダウ」をおばあちゃんはよく聴いていた

子守唄聴いて育ったワインもある 勝沼葡萄郷の酒蔵

草はらをそよがせて去る風のこと鎧戸の中聴こえるピアノ

その人の「砂の器」が聴こえて来る 遠ざかりゆく冬の旋律

夕ぐれはさびしく鐘のなるものを唱歌きこえる谷あいの町

石段を上れば今もその人の「亡き王女のためのパヴァーヌ」が聴こえる

夜明けまで待てない鳥は学校の森が抱く鳥、<ピアノの森>の

結婚をしても持ってはいけなくて忘れられているピアノが歌う

小学校唱歌、童謡、子守歌 夕焼け子焼けて帰る故郷

夕食の支度しなければ こんな時突然聴きたいカザルスの「鳥の歌」 

ぽっかりと虚しさ残る空洞の広さ深さのブラック・ホール

夕立は来たらず父の背も見えず 驟雨の夏の記憶も去り

こうしてまた一人置き去り鬼の子が 痛ましく生まれ痛ましく死んだ

朝ぞらに紋白蝶の舞うを見し 六月の朝生まれざる夢

誤解を受けることを何より恐れているそんな人だと私にわかる

白い孔雀おまえのために雪よ降れ 雪が弔うまで待ちなさいハイエナ

南天の赤い目をした兎にも見えるだろうか雪の結晶

今捕ってきたばっかりの海老や蛸 茹で上げている腕(かいな)たくましく 

熊にはねぇ滅多に会えないんだよって山の湯の宿の女あるじは 

原人の故郷はない財もない 星の光を守護天使とする

海はゆめ、海はまぼろし、遥か見た星が頭上で瞬いている

丸木舟くりぬいてきた 精霊が風が私の背中を押すから

ブナの森、焚き火している原人の 歌垣つくるその歌垣を 
internet 「眩惑」歌会記録
感情は食べてはならないと文殊菩薩 食べていいのは萵苣(ちしゃ)や白菜 

山あいの生姜の花の薄紫 雨の日、雨のひかりあること

野火止のムラサキシキブ花盛り 水辺が好きな一本の樹は  

夏来ればさやぐ身なれば白い旅 水呑む龍が睨む一水 

午が丘、夕陽が丘に挟まれて 朝日が丘の磯野波平 

春風頼母(たのも) 今頃どうしているだろう 去年初恋のひとを喪くして 

観音寺・箕浦、燧灘めぐる海岸線の予讃本線

「もしもこのコンピューターが薔薇ならば♪」と たとえば踊る夏のセイント

薔薇病めば棘もまた病む 桜桃忌・鴎外忌など来る雨季の憂鬱 

殺されて幸福だったと言えるほど煮詰めてあげる幸福のジャム 

野焼きした春の煙も憶えている山桃のジャム届ける 君に 

路地の奥、赤子に乳を含ませて腕に抱けば夕餉の時間

穀潰し、死に極道され、碌でなし そんなあんたも見ている満月

百本の薔薇を柩に入れたのは百合や菊など嫌いな娘だから

恋人はやくざな次郎 命日にいつでも薔薇を抱えて墓地へ

嫁かせたくなかった馬鹿な親だった まさか死ぬとは思わなかった

棺桶の蓋取った時、約束のキスをしていた ひとりにしない

一晩中、遺体の傍を動かない愛犬ゴンとやくざな次郎

そういえば手持ちの花の歌ばかり 変われるかしら私の花 

ゆっくりと孵る卵を待つように死が待っている モウスグ枯レル 

モデラート・カンタービレ冬逝き花は咲いていて何でもない日にあなたがいない 

あの人は待っていました郊外の小さな駅に車をとめて

点在し時間と距離を超えて会う おちあう場所は風の洞窟

ほんとうの歌が歌えてはいない木の精霊を探していただけ

熱のためたぶん昨夜の夢のため千の花びら曳く黒い谷

もしも明日、あしたいのちが終っても一度は花の微笑みを見た 

夢無限恋の奈落の仇桜 六道地獄の闇に咲く花

永遠(とことは)に桜は咲けり血を吸って地獄極楽花明かりせよ 

病む桜 桜は老樹となりました 春の精霊呼んで息絶え 

花咲かぬ樹は倒されて伐り出され往時の春を夢見ています 

夢見ても帰らぬ春は去年の春 宴の春を酔って歌った 

この世とは人・我となく何となく、酔生夢死の花となること 

病む母の夜の心のさくら・さくら 桜を待たず母は逝きたり 

あと少しあともう少し生きていたら 今さらのこと 桜を見れば 

桜ならいのちを惜しむこともなく さよならだけが人生だって 

でも今年は 今年の春は思ったよ 浩平はもう大学生だよ 

母がまだ若かった頃の隣家なる「櫻正宗」砂地続きに 

防火水槽代わりに酒の大樽を隣家より頂くという 家焼け残る 

その年の神戸は焼かれ焼け残り 昔の「洋館」の暖炉と酒樽 

ロシアより帰った人が建てたからニコライ時代のサモワールもあり 

その古い役に立たない湯沸かしは今も私の部屋の片隅に 

震災後その街を訪ねてはいません おそらく潰れてしまっているから 

東京に桜咲き満ちる春の、日比谷帝劇・日生・東京宝塚劇場 

ゆりかもめ空に舞う城、江戸城の名残りを偲ぶ皇居の桜 

花咲ける花のお江戸の大江戸線、ゆめもぐらともいう青空はどこ 

観覧車ゆらりと高しお台場の水に浮かんだブルー・クラフト

真実はいずこにもなく双瘤の駱駝のような議事堂の桜 

いにしえも今も変わらぬ民衆の快楽の餌食 断頭台(ギロチン)の王 

王のみで足りない時は魔女狩りも常に平行する民の快楽

さらにまだ足りない時は新しき餌食求めて新王擁立(た)てる 

桜闇、デフレーションも深まれば日本列島卯月の花冷え 

してそしてすべて血祭りが終っても足元照らす灯りが見えぬ 

白い船遠く見えます富士山も夕陽の中のシルエットです 

水青き水泥も深き墨田川 ベイエリアという河口までの旅 

国立の大学通りの桜も咲く 銀杏書房の洋書に挿む 

一ツ橋大学図書館、時計塔 枝垂れ桜が咲く入学期 

池水に浮く花びらが風紋を 甲羅を見せた亀も数匹 

その赤い三角屋根の駅ももう何時までだろう ビル聳り立つ 

並木道十字に交差するところ交番前の桜と桜 

珈琲店の一面硝子窓に見る 爛漫の春大学通り 

一斉に花は葉桜、街路樹は欅若葉の萌え出る五月 

ご城下に桜咲くころ家中川の魚も旨いと源さんは言う  

お茶壺は夏を氷室の城山で 夏が終れば江戸城内へ  

ずいずいずっころばしごまみそずい 茶壺は下に下にと江戸へ  

堀割に雪溶け水は滔々とご城下の田を潤してゆく  

用水の淵には桜の花びらが渦巻き流れる春の奔流 

城代や高禄の武士住居する家中川橋渡る一画  

石垣を低くめぐらし椿植え、桜を植えて池に水も引く  

桜散る無人の駅の善光寺、甲府盆地を静岡へ発つ  

急行も止まらない駅善光寺、高台にあり桜散る駅 

身延線 中央線に平行し桜吹雪の銀河鉄道  

その村でいちばん旧い家がある薄墨色の夕闇も来る

世界中で一番好きな人だから一番きれいな夕日をあげる

火のように淋しい日本 春地球 孤愁を描く日本列島 

旋回、旋回、旋回、旋回 グラン・デュテ! 薔薇、薔薇の精、跳ぶニジンスキー  

生きていてほしいあなたは死なないで 凍れる湖の遠き白鳥

再見!」とあなたは行ってしまったね 春の日逢った人が春逝く  

ヒマラヤの青い芥子よりなお青い、手紙の中の二人 さよなら  

あの世から今日も降る雪・降るみぞれ この世からも書くあなたへの手紙 

いつからかあなたのことを思っていた 手紙のような歌書いていた

見知らない人の写真と手紙がある 母の箪笥の小さな抽き出し

「緩やかに物価は下がる」政府月例報告は資産デフレを国民に告ぐ

絵葉書の余白に滲む海の色 桜前線黒潮育ち

約束はまだ果たせない花便り 渡海船は一日二便

さびれゆく旧街道の本陣の、七卿落ちの名残りの手紙

秋山の無生野というところには護良親王親筆の信 

「この子は私の大事な子で~」 作家が残した命名の手紙

手形押し、「僕は元気だ安心して」 戦地から来た兵士の手紙

夜空より九億九光年の彼方 瞬く星が生まれる便り 

亡くなった政田岑生氏デザインの玲瓏箋の藤沢蛍 

ひとときに人は死ねないものだから幼き者へ手紙を書こう

思い軽く生きているよと告げている 花と木のことだけ書いてある

何の夢も希望もないと思える日 「ヒマラヤの芥子」の絵葉書が来る

郵便はまだ来ていないかもしれない 春の便りは少し遅れて 

傾いて立つ樹のように傾いて 風の手紙を待っているだけ 

私がいつか死んでも日付のない宛名すらない手紙のように

遠く住む友の葉書を読んでいるその街はもう雪が降ってる

茜雲 赤い峠の赤とんぼ 富士見る村の馬頭観音 

揚雲雀 ちからのかぎり飛翔して悲しみ告げる茜空あり  

森の奥しづかに水はきよらかに野生の樹林貫いてゆく 

もう飛べない飛びたい夢ももう持たない 東京湾に夕日が落ちる 

泣くたびに美しくなる死ぬたびに美しくなる 風の不死鳥  

そして風! 天翔る鳥、火の鳥は 光になるよ 《グランド・ゼロ》の 

春怒濤 憂鬱症の猫となる 卒業写真から遠い日々 

春早き神戸の街の花吹雪 さよなら雨に煙る聖母子(像) 

道はない そんな時でもあきらめない 地図のない旅、卒業旅行

ナスダック暴落してもアメリカは卒業しない懲りない人々 

〈やがて死が愛する二人を別つまで〉 経済指標卒業するまで 

そうそしてついでといえば何だけど 世界の警察官も卒業 

それからの日々を思えばかなしくて あのひとのことだけ思っていて 

多感な日 まだゆれやすく夢を見て、恋を恋していただけだった 

聖母子が海を見ていた 遠い春の卒業の日も海を見ていた 

卒論は13枚の『地獄変』 締切の日の窓口で書く 

雨上がり ひかりを曳いてツバメ飛ぶ 街が大好き人間が好き 

この世の外ならどこだって 白い綿毛の旅がはじまる 

雪を割って陽だまりに咲く野の花の小さく炎える春の絵手紙

弓矢捨て鬼無里の里の野を打って春待つ人の手にも来る

ゆっくりと記憶の野火は放たれて手負いの獣追いつめてゆく

あのひとに届けたい明日・チョコレート 春の雪降る聖バレンタイン

アイシテル、アイシテイナイ、アイシテル 五弁の花の愛チョコレート

小惑星〈エロス〉発見、探査せよ 聖バレンタイン星の祝祭 

誰よりも愛しているというように 春の雪降る生まれたばかり

左眼の下にあるという動脈瘤 明るい報せのように告げる人

簡単に死ねるからいいと言い 手術はしないと決心している

現実に私は何をすればいい 失う前に教えてほしい

病室の窓の向こうに積乱雲 母が入院していた夏も

いつだって言葉にならない言葉だけ ためらうように月が出ている

原潜が浮上している 春うらら 東京湾に立つ蜃気楼  

昨日また誰か死んだね、雨の燕 「いつもこの駅で降りていた人」

ブック・オフに知は100円で売られけり 海を渡って死んだマンモス  

蕗の薹、どっさり採った裏山の斜面に去年の鬼灯(ほおずき)の赤 

たらの芽の天麩羅もよし、ふきのとう・たらの芽、籠に入れて下る坂道 

山道に湧き水ありて富士山の伏流水で源水

木小屋あり竹藪あれば踏み迷う 蜥蜴、かなへび、洞の蝙蝠

ホップには薄緑色の花が咲き、夏の雨降る微かに匂う 

そういえば昔も花を見ていたね 六香公園の冬の日だまり  

大きな木 勇気・元気と名づけられ雨の公園の真ん中に立つ 

夜がきて夕顔ぬれて君帰る そんな書割りみたいな町よ

どこへでも飛んでいきたいどこへでも どこにもいたくない時もある

そんな時どこへ行ったらいいのだろう 真夏のロシア青い尖塔

情熱のバラを窓辺に お掃除や洗濯だけで終わりそうな日 .

簡単な引っ越しが済んで ラーラと呼んでる犬の小屋も作って 

失った時間や物は数えない 料理・洗濯、普通の暮らし 

人生は悲しすぎる何かである 私は歌を歌いはしない

手をつなぐ黄色いレインコートを着た浩平 雨の日はいつも手をつないで

あれから何年経ったのだあれから何年行方不明 迷子になった私の心 

野の果てにタンポポ枯れて綿毛飛ぶ 日本に帰りたいしゃれこうべ

人が死ぬ その時何が起こるのか 花束を乗せた始発電車よ 

定点で観測しても………その街の山陰深く病む人と薔薇

「酒鬼薔薇」 海見る丘のニュータウン 殺意の薔薇の棘もびっしり

「世の道のすべてが舗装されゆかむわが家のまへ呼吸する土  伊藤一彦」

下町の工場街の一角にもんじゃ焼き屋のおばちゃんはいた

小母ちゃんの店には、もんじゃ焼きのほか、めんこも独楽もマンガもあった

ろうせきはいつでもおばちゃんの店で買う 絵が上手だねってほめてくれたよ

路地の辻、みんなで行った紙芝居 小父さんはもういないこの夏 

佃煮屋、魚善川勝ぼくの家 竈の灰だけもらった感じ

でもぼくもそろそろ跡を継ぐ覚悟 父ちゃんはもう店に立てない

新しいことはしないよ爺ちゃんや父ちゃんと同じ佃煮を煮る

酒、醤油、味醂、ざらめでゆっくりと鮒、煮含める暖簾も守る

遠い日の夏の日暮れの路地の奥 蝋石で絵を描いていた少女

けんけんぱけんけんけんぱ日が暮れる 夕日が落ちる海が見えない 

表情に出さない出せないこともある 一瞬、数秒ほどの空白 

数字では孤独死一人 表面に見えない千人切り捨てている 

数字には変換できない言葉にも表現できない あなた一人を 

数知れぬ航路をデジタル表示する 夜間飛行の灯一つ 

表まで聞こえる噂までなって 数馬の恋は一期の夢と 

<信天翁、海の貴婦人、アホウドリ 絶滅候補数種の一種の海鳥>

十数羽のみ生き残っていたアホウドリ「発表によれば一千羽」南の島に無数に殖えよ 
銀河最終便 1992~1994 「玲瓏」

流されて来のは一つの舟であり 櫂も櫓もない小舟であった

〈夕焼けも三日も見れば見倦きるよ〉薄水色の空の三日月

美しい空と夕陽を追いかけてそしてそれからどうなるという

風になる! ある日突然そう思う 地球を焼いてくる炎が思う

一生には悲しい日々が何度かある 流れるように飛ぶ鳥を見た

いつだめになるかもしれない灰色の鳥は微かに血を滲ませて

これからの悲運の時代を傷ついた鳥はどうして生きるのだろう

時にはもうすべてが終ったと思う 風が焔を吹き消している

シャガールの恋人たちは空を飛ぶ 壁にもたれて私は唾る

玉葱の芯には何もないゆえにあるがままなる炉辺の幸福

老いる前に時々〈空虚〉もやってきて小半時ほどどこかへ消える

魂の抜けゆく真昼ひっそりと脱皮している蛇がいる

切れ切れのあるかなきかの生命線〈老婦人の夏〉はいつまで

青春が遥か昔であったこと 無為と無能がゆるされたこと

魂の古巣のような背表紙の金文字指でたどる図書室

甦る春があるなら死のように眠っていようね冬の陽だまり

幸福と思えば思える冬の日のその陽だまりに影さしている

陽炎が立つから春が来たのだと思ったあれは冬の陽炎

黄昏に忘れた記憶蘇える 風が木の梢(うれ)ゆらして過ぎて

最後には何にも無くなってしまう 終りの時が近づいている

《午前晴、正午浅草、夜小雨》、晩年に降る荷風の小雨

雨が降る とても静かに雨が降る 眠りなさいと夜を降る雨

この夏の心弱りか予期しない 雨のような別れのためか

あの人も私も歳をとったのだ 育った街も海も変って

私は正常ゆえに虚しいと 汚れ知らない夏の日の蘭

〈一つ星てんとう虫は毒がある〉夕暮来ればその名も消える

〈二つ星てんとう虫も毒がある〉七星てんとう虫の幸福

笛を吹く少年笛は何の笛 失くした夢を母に呼ぶ笛

今よりはまだもう少し若かった父に似ている少年の顔

父方の、母方の血を受け継いで その横顔の相似る姉弟

いつの日かあなたのために歌う歌〈さよならだけが人生ならば〉

私の心は消えてしまうから雨のようには歌えないから

眠れない夜や逢魔が時のため涙ぐむ日の日没のため

私の中にあなたが生まれた日 風が生まれた 風は旅人

私がいつか死んでも日付のない宛名すらない手紙のように

十五年前にはこの街の空を知らず かかる日暮を思いもせずに

さりながらさはさりながら何事かあきらめていた私がいた

見上げては空より青い海の青 海より青い風の夕暮れ

〈多摩川の清き流れ〉と子は歌う〈茅渟の浦幸う里〉と我は歌えり

街に降る雨は車の音で知る 夜降る雨は夜の音して

ハンガリー舞曲のように悲から喜へ変り身早く裏切らんとす

哀切でメランコリックな劇に似て昔の恋の痛みのようで

さしあたり口あたりよきシャーベット熱ある朝の身を起こすため

何よりもまどろむことの心地よさ 降る霧雨の午前十時に

恋なくて私は盲い夢なくて私は狂うそれと知らずに

簡潔な主題のための四楽章、第三楽章からの憂欝

惨憺たる希望よ薄明の絶望よ 私は何で生きようか風よ

黄昏に蒐めた夢を焚火する 巨いなる手の見え隠れして

今閉じた人の心をノックする 秋の木の実を落として風が

ほんとうはあなたに告げたかったこと 銀河最終便で届ける

<淡々とこのかなしみに堪えること>イエティの棲むネパールの空

美しい空というには怖すぎるこのごろそんな夕焼けが多い

微笑んでいるのは悪魔かもしれず 優しい悪魔であるかもしれず

哀しみはエゴン・シーレの赤と黒 尼僧に触れている枢機卿

雪の峰、風の荒野を越えてくる サラマンドラは火を恋いながら

風の神(レラ・カムイ) 雪を沈める湖の流され白鳥、眠れる白鳥

暁の共同墓地のモーツァルト 無邪気な鳥は撃たれやすくて

もがいたら羽撃いたなら逃げられる? 天国までは遠すぎるけれど

月読みの草牧原の白き馬、天翔るなら銀河を超えて

君がまだ歌わない歌があって 天の飼い葉を食んでいるところ

私は桜の花が嫌いだと誰かが歌う 低き声にて

内側から溶かしていこう 軟弱な僕らは戦争には行かない

私を滅ぼすものが世界なら、他者なら死なら 赤き口あけて

その朝、夏降る雪のように降る 暗き窓辺のエゴの木の花

夢に降る エゴの真白い花びらが 午後燦々と陽の照る中を

何度目の夏がめぐってきたのでしょう 真昼の星になったのですか

〈私はもう私ではいられない〉破滅してゆく五月の夕陽

夏に病む太陽があり森があり 誰のためでもない凋落がある

葛藤の巷に降りてくる時に震えはじめる六月の雨

ためらいてふるえて繊き雨は降る 夢見ることをあきらめて降る

アイオロス! 風の支配者ならば訊く ここ吹く風はどこへ行くのか

焼きはらう野はまだあるか 薙ぎはらう百合のようなる心はあるか

鞠を蹴り鞠に遊んだ大納言 蹴鞠に倦きて死にたるという

一生は長すぎたのかも知れないね 千日ならば愉しかりしを

出逢いたいものなら初めにあったのだ 無関心にも似て過ぎた日に

光る海、海見る丘に吹いた風 その気軽さが好きだったのに

どんなにか遠回りして念入りにわざわざ無くした夢だったろう

饗宴はまだ始まったばかり 復讐劇はさらに優雅に

身軽にはなれない私 許されないほどの悪でもないのに

悲しみのために盲いた梟と 精霊たちが今宵の主役

太陽をもう何十回もまわったが 誰も悲劇を演じられない

稲妻が連れてきた雨 あの雲の切れ間から射している日の光

まだ夢の亡骸ならばここにある 残骸だから苦しまないよ

剥製の鳥が見ている北の空 CDで聴くユーカラの歌

鴎外の口髭に見るダンディな明治の男 恋しきは秋

鴎外は優しい父であったから微笑の似合う父だったから

一枚の紙片が炎になる炉心 その炎から飛び立つ小鳥

迷宮の森をさまよう一羽ゆえ 羽より軽く生きられもせず

どのようにたとえ一生が終っても北をめざして飛ぶ鳥がいる

まだもしも言葉があれば語るのに 死にたいほどの自由について

もう一度風のささやき楡は聴く 北の斜面の雪消えるころ

一枚の絵皿を私は持っています 〈実朝出帆〉と名付けています

擦りながら浅瀬を渡る霧の船 すでに座礁は時間の問題

砂浜にうちすてられた船がある 海を知らずに朽ち果てる船

沈黙が怖くて何か話してる 亡霊を見たなんて言えない

そんなにも遠いところへ行っていた 躙り口から向こうは密室

こんなことナンセンスだというように位階三段跳びの実朝

でもこれで禁忌が一つ増えたのだ あなたに無礼講とはいかない

形式が絶対であるわけはない ところで太陽系はどうする

陽のあたるところに眠る三毛猫の鈴が鳴ってる 夢に噛まれて

距 離(ディスタンス)とっても大事と思うんだ 誰にも近づきすぎてはいけない

木乃伊取り、埴輪になって眠る頃 帝の国の日はまた昇る

甲斐の国、酒折の宮に照る日影 ヤマトタケルは白鳥になる

ある意味で疎まれているあの人たち私はあの人たちが好きです

かたつむりそんなに薄い殻の家 すぐに毀れてしまうだろうに

すべてもう終ったことさ 疲れきるおまえを見たよ 冬の街角

どうしようかと思うほどかなしい日〈カムイ・ユーカラ〉アトイが歌う

アメフラシ、雨を降らせて下さいな 答えがどこにも見つからないよ

最後には死が救いだというように 花を見ていたなんてあまりだ

序曲から終曲までのくらやみに花は萎れていったのでした

何もかもご存じだったのですね 手を貸して下さればよかったのに

《世の中は鏡に映る影にあれや》 夢と思えば生きてもゆける

《アカルサハ、ホロビノ姿》 見苦しく張り裂けてゆく殿様蛙

ほんとうは死んでいるんだ 痛いのはケロッグ・ケロッグ錯覚なんだ

かなしみがまた夕闇を連れてくる 降りだしそうな寒い春の日

雨の日に探していたのは名無しの猫 ホリー・ゴライトリーの飼猫

ずぶ濡れで街をさまよう名無しの猫 明日がなくても生きねばならず

精神的外傷なんてなんでもない もうすぐ木っ端微塵になるよ

〈死にたくも眠りたくもない〉死にたくても眠りたくてもそれができない

私は夢を見ていた夢は忘れたが まだこの先もつづく現実(うつつ)や

死児を抱き北に向かえる一家族 一路の果ての冬の家族よ

日本を縦断してゆく列車に乗る 骨壷を膝に抱えた家族が

灯の下に 或る幸せの一家族 かなしみ知らず生きし頃あり

かなしみよ生々流転する川よ 世界樹の沈みゆく河

囚われてしまった船は動けない 囚われている理由

そしてまた虚しい明日、そしてまた夢の凍結 私を殺せ

閉じられて初めて完成する円環 波頭から砕ける形

死には死のスピードがある 壁掛が織り上るまで待っていられない

なお生きよ! 禁断の実を食み尽くせ 不死なる鳥がいるわけもない

疲れたら枯葉のマント被(き)て眠れ 光の春は遠いのだから

太陽が眩しいのならだるいなら オブローモフのようにおやすみ

汚れなくイノセントなるヒトゴロシ血に染まるほど白く透ける手

〈微笑の国〉は微笑、〈黄金の国〉は黄金 奪われて夏

母というかなしいものを何としよう 私の通ってきた暗闇を

虚しさは昨日も今日もありました それが永遠なんです実は

その先に何があるってわけでもなく 生まれ変って生きたくもなく

素裸で投げ出されている点と線 サム・フランシスのように無防備

目を瞠るような奴だよともかくも ひとりぼっちで来る死神は

死神の羽交い締めなど怖くない どこまでだって逃げてあげる

どよめきは森の向こうの球技場 森の中では風が死んでる

漱石やマイケル・ファラデーとは違う 森林太郎的生き方

残骸のような時代に生きる鳩 広場よごしているだけの鳩

喝采と非難は一つ「肖像にあなたは全然似ていない」って

愛されることを拒んだ物語 たしか放蕩息子の話

〈血の汗が流れるほどに熱心に〉イエスは祈るゲッセマネの祈り

十字架を背負って登る ゴルゴタへ 手足を釘で打たれるために

三人の中の一人の罪人が イエス・キリストと呼ばれた男

聖霊によって妊る子はイエス ヨセフを父とよばなかった子

幸福の宅配便はないですか? 退屈しているJ・Jのため

胃袋を鋏で切られたんですね 石ころ詰めて縫ったんですね

大事だと思ったものが石ころで おかげでとっても平穏な日々

死に方はいくつもあるが死はひとつ 未来世紀に私はいない

「アンチェインド・メロディ」歌う一路真輝 映画『ゴースト』でも流れていた

「エリ、エリ、ラマサバクタニ」その弱さ限りなく終末に近づく

気絶した瞬間に見えたのは 母船(マザー・シップ)のような貝殻

勾玉は胎児の形 月満ちて生まれるまでの幼い星か

もうすぐだね 張り裂けてゆく樹が見える 蝉はとっくに死んでしまった

マダミエナイ トッパコウナドドコニモナイ 蟻は墓穴を掘っているのさ

ラクリモサ ただ簡潔であることと ああこんなにも少ない音符

スコアには数小節の生と死が 最後に一声啼くと白鳥

引き金は自分で引こう 一発はただ一発に過ぎないけれど

全てのもの全てのことを善しと言いし この善きことの残酷にして

精霊の言葉捕えよ 風と樹と空が交わしている秋の歌

鉄仮面 一人が一人の影になる 影は陽気な短命な王

その秘密封印されて 私が誰であっても私は私

おそらくは君を明かるくするものの一つに闇の存在

フイルムに感光している放射能 『石館』と呼ばれている4号炉

一歩ももう歩けないって気分だよ 大きな鳥の影を見ている

夜明け前 死骸を積んだ貨車が出る 早く死ぬ者ほど運がいい

夜明け前 焚火を囲む人たちか 奇妙に明るい一角がある

あきるほど雨を見た夏 仰向けに死んでしまった灰色の蝉

乾く身はアリにもキリギリスにもなれず 失語に至るまでの過程

その道が鎖されている もう一つの死が始まっているかもしれず

安住に適した土地じゃないけれど ここより先へは飛べぬタンポポ

我思わぬゆえに我在り 生キルタメ、明日を思わず我を思わず

つらいつらい人生なんてなくていい 冬の時代の思惟するゴリラ

みんなみんなひとりぼつちで死んでゆくひとりぼつちで生まれた烏

見渡せば財務局の官舎の屋根 給水塔に群がるカラス

オレンジに染まった街の交差点 あるとき風がおまえをさらう

すでにもう半券ばかり 大方は見終わっているこの世の舞台

あの頃の私は「現実」にまだ平手打ちされたくらいの若さ

酸素止めれば死んでしまう熱帯魚である 午後の水槽

母親であるアザラシは死んでいる 気息奄々波打ち際で

暗渠には暗渠の風が吹いている遠い国から吹いてくる風

御詠歌をうたう老婆たちは信ず 衆生を救う仏あること

曼陀羅をかけ蝋燭の炎みて 炎の中に仏見ている

砂漠には砂漠の花が残されて サン〓テグジュペリもランボーも死す

沈黙は最後の言葉 誰よりも大切にして軽蔑している

全体を括弧で括つて隠れたい 透明願望引きずっている

子別れに儀式はいらず春氷雨「週間賃貸」置かれた机

まいまいがまいまいであるそのためにぬめりと殻が必要である

少し熟れ傷ついている果物が百一歳の遊亀さんのマンゴー

生きているこの荷が重い蝸牛、銀河に飛んでゆけよ砕けて

イキテユクコトハトッテモムヅカシイ 鳩も烏も生息すれど

海見れば海の青さに空見れば空の青さに人恋う心

かさぶたのような一生かもしれない すでに何かは起こってしまい

しなかったことの後悔満ち満ちてだからといってしたくもなかった

斜滑降してくる烏……そうだ忘れていた君のこと
風は旅人 1980~1993  「短歌人」・「未来」
存在の奥の欠落埋めがたく夾竹桃の夏もすぎゆく

雪の夜にランタン赤き窓ありて若き主人の古美術の店

坂道の西洋館の風見鶏ひとりぼっちでくるくる廻る

落陽の海見る丘の墓地近き外人学校新学期の秋

幸福は街の夜店の青い鳥 青く塗られたひよこなのです

縞馬と駱駝が見える公園の土手から見ていた朝焼けの海

授業抜け白紙答案出してきて校長室で書いた始末書

転生を願うことなき涼やかさ 今を最期のひぐらしの杜

アリのんでいるパンをすずめがひょいと食べてしまった

「邪魔だったから」家族殺しの少年のつぶやき夏の草いきれ

無残なる日々を生ききて今ひとり陶器の店を商う女あり

たとえば歌など何のためにこんなに空が青く澄んでいる

生きているだろうかまだ私は日々の渇きの充ちる時まで

今はもう絵空事です言葉です「気侭に風に吹かれるように」

荒海の船を導く火のありかセントエルモス・ファイアー消えたり

ひとすじの煙が空へ消えてゆく宙とつながる心のように

誰も知らない私があるように私も知らない私がいるだろう

青春の謝肉祭なら知っている 紙吹雪なら一枚残っている

反宇宙、反銀河、反地球、反私。何処にあっても今日の飲食

この村は星の里ですその昔隕石落ちたほこらがあります

弔いの夜の彗星は鳥だよと墓掘りながら村人が言う

雪山の端より月は上り出づ夜を照らして死を弔って

忍野村その八海の水底に幽界はあり光る魚あり

母病んでいる日の庭に鳥が来て昨日のパンをわけあっている

春になれば花も咲くさと陽だまりの土を踏んでみている

「パリの灯点って一周年」テレフォンカードの国立の秋

冬の樹の梢の彼方に消えてゆく黄色い飛行船を見ている子供

ひとときに人は死ねないものだから幼き者へ手紙を書こう

夕暮になれば富士山影になり石段降りる猫も影になり

どんぐりが帽子被って落ちているゆうべ風が吹いたらしくて

山椒の赤い実を腹いっぱいに詰めているよ香ばしそうな鳩だよ

白黒のぶちと茶色の子猫が林で生まれてさざんかも咲いた

風はまだ吹かないけれどいつか吹くと誰かが言っているような秋

往き帰り枯葉の寝床にうずくまる白い猫見るこの幾日か

駅前にビル増えてきて柿色の空のむこうの富士が小さい

犯罪の多そうな日だ今日一日春の嵐が吹き荒れている

明日のこと誰も知らない今日までの続きと思って葱きざんでいる

重くて古い自我などと言われているよNHKから来たディレクターは

スカラ座は閉館しますの貼り紙が雨にちぎられ飛ばされている

閉館の今日は優しい切符切るシモーヌ・シニョレに似た小母さんも

老館主右脚少し曳きながら閉館の日のロビーを歩く

難破船漂うように映写室雨降る中に残されている

網元の暗き湯殿にほの白き午前零時の湯気立ちのぼる

甲冑の触れ合う音のする如き黒き家並みの果てに海あり

断崖の上の老樹のそのもとに墓地あり小さき葬列が行く

白壁と定紋瓦、長屋門 昔日知らぬ子等の落書

その昔合戦ありという杜の傍ら行けば風花が舞う

舟隠し洞窟潮の引くときに小さき魚の残る岩陰

坂道に篭をおろして老人は道を尋ねしわれ案じ待つ

夕焼けの墓地に海見る少年は熟れしばかりの無花果を食む

花びらの雪降る朝は死者たちの今年最初の声とどく朝

やがてその石に夕焼けが射せば薄桃色の馬頭観音

夢を見るうつらうつらのうたたねに信濃追分あたりを歩く

今日もまた優しい嘘をついている富士の笠雲雨呼んでいる

ごまかしてもっと上手に誤魔化して泥の小舟で湖を渡るの

半年もほったらかされた天皇の異常のデータ朝刊に読む

子を残し空に帰れぬ鶴がいて夕べの雲を倦かず眺める

禅林寺へ行ってみました三鷹で降りて 昨日どこへも行くところなく

森茉莉も納骨されるはずだという森家の墓地の花枯れている

花と酒、それも津軽の酒がある 太宰治は幸福な死者

この町の七十軒の古時計ネジマキ屋さんにまかされている

脚立持ち修理具入れた鞄持ちネジ巻き歩く古時計の町

崖にある足跡一つ晴れた日に海を見ていた恐竜X

鉛筆の芯折れている音がするどこかの沼で魚が跳ねる

犯罪を犯したいほど雲一つ草木一つも動かぬ真昼

街路樹の赤い風船ひきちぎり春一番の南風吹く

私を支配しようとする人を紙飛行機に乗せて飛ばそう

すねかじりすねをかじってかじりきりその一本を捨ててきている

ひとり出かける日の駅前に浩平の好きなボンネットバス

つつがなくうつらうつらとすぎていてカフカの変身他人事ならず

こめかみのくぼみは何のせいだろう牙なき象のかなしみのため

夕焼けを夕焼けとしか言えなくて他国の風に吹かれているよ

前の家の庭の木を切り草を抜き蜜柑をひろいどくだみを摘み

西向きの狭い小さなバルコニー咲いているもの花と呼ぼうか

花じゃない西日わずかに陽と思い顔傾けて咲く花なんて

一枚の葉は見つかりましたかと陛下と小倉遊亀さんの会話

税務署と市役所と法務局行ったり来たりで日が暮れている

たましいが何かにあたって鳴る音が風の中からきこえてくるよ

春を抱く春の光を抱いているれんげ畑の小さな王女

竹とんぼ自由一つを羽にしてただ風だけを友だちにして

日常がただ日常で過ぎてゆく等身大の鏡の中で

生きているとどんどん汚れていきますね表面積が大きくなって

人は死に土塊になり灰になり空の雲より淡いものとなる

太陽は天の赤道通過中眠気とだるさとたたかいながら

一年はわずかな時間の経過だとスザンヌ・ヴェガの歌聴きながら

「漁船の絵」アラン・シリトー読んでいる土曜の朝と日曜の朝

アリさんも歌ってみればよかったのにキリギリスよりアリへの手紙

四十代の女はみんな元気だという話聞いているうち疲れてしまう

鴎外忌初めて暑い夏の日のその日の墓地に風もない日の

絶版の「父の帽子」の中にいる父鴎外と森家の人々

森鴎外、太宰治と森茉莉と静かに眠れ梅雨まだ明けず

一葉の父のふるさと塩山のすもも花咲く二本木の道

二本木行きバス終点のバス停の馬小屋の馬、留守番の馬

何をしているかわからぬ家があり馬一頭が繋がれている

あの窓の一つの窓に住んでいる 歩道橋を斜めに歩く

一冊の本落ちている石の上、蟻が見ている旧約聖書

旅立ちの支度をしているいつの日か来る私の旅立ちの日の

こうもりが薄暮の空を飛んでいるまだ帰らない子供を待って

夕空に一つ星あり三日月あり近づき消える飛行機もあり

美しいというものはあるどこにでも小さな家の軒に降る雨

お魚が雨傘さして歩いてる「エッフェル塔とロバ」の風景

追憶のロシアが見えるフランスの海に河岸に空の向こうに

こんな夜更けにまた火事らしい 窓に映っている灯と私

ねずみ来て話してゆくと祖母が言うひとり居るより楽しいと言う

八幡の大杉樹齢数百年「皮一枚のぼくの人生」

嬉々として弾けるように跳んでゆくはるばると来て海を見た子が

満ち潮に靴さらわれて流されて網で掬っている小学生

左舷には純漁村風、右舷には地中海風風景がある

なせばなるやればできると思ったこと一度もなかった死に極道され

丸坊主になってしまったベンジャミン何が悪かったのかなあって考えている

葉も枯れ土も減ってしまった幸福の木ますます過分数になっていくね

千代田区一番町の夕闇に病む人あるらし水鳥も病む

雨がまたざんざん降って夜になる 九月東京、雨の東京

東京の空から太陽消えている 医師団は血を入れ替えている

土曜日の約束をして別々の道を帰って日常である

こんな午后もしあったなら鴨川の石になってもよいほたる草

されどされどさびしさびしと言う人よ雨の降る日の優しさごっこ

昨日から熱あるようなないようなぼんやり過ごす雨の休日

貴腐ぶどう熟れる夕陽の落ちる町あずさ九号通過する町

少し汚れ少し壊れて美しい騎馬民族の王の水差し

あの頃の夢がどこかへ消えたと言うどんな現実に捩じ伏せられて

落ち着いて玉葱切っている時間 涙は何のせいでもなくて

母が死んだ ただそれだけのことなのに親族一族すべてが視える

栗の実を拾ったことも今ではもう遠い昔の夢のようです

何もかもお終いだって知っていて何も知らないふりをしている

ふるさとの海へ行こうと話してる春休みには大橋渡り

ざる一杯バケツ一杯の海老やシャコおやつに食べていた漁師町

浩平と二人で渡る瀬戸大橋海老の匂いのする町に来る

ホラーでない異次元世界見たいから超高層の夕陽見ている

広島のことはやむをえなかったと語りし天皇眠る天皇

戦争の死者たちがもういいと言うあかげらの歌が寂しいゆえに

明日ゆく日出ずる国の天子ゆく空襲の日の空に似た夕焼け

血塗られた昭和の果てに血を替えて天皇はゆく何も告げずに

冬ざれの史蹟公園散歩する缶コーヒーを片手にもって

千曲川上流育ちクレソンを佐久の馬刺の大皿に盛る

転がされ棄てられている一塊の土のようなる影のようなる

細長い廊下の向こうに海があり座敷の向こうに海光る家

この生のさなかに訣れし人あれば春立つ頃の月を忘れず

半分は冗談だった薄情さ私の本質だっただなんて

しばらくはこんな調子で流されて流れるままに流されてみて

なまじっか愉しい日々があったから後の月日がさびしいのです

夜行性みみずく一羽起きてきて日々の軽さに爪たてている

物語(レシ)と呼ぶにふさわしい一生もあり母たちの世代

畑にも庭にも雨が降っている蓮池に咲く花にも降るよ

冬眠のがまとこの頃の私とどちらが先に目を醒ますのだろう

鹿苑寺「白蛇の塚」の子孫かも赤と黒との小さな小蛇

通夜の客若い日の名で呼びあって遥か昔の物語する

見知らない記憶すらない一生に支配されゆく一生もある

来たる闇行く世の闇の何処より光はありてわがいのち在る

生きている私に砂をかけている耳をすませば弔いの鐘

夜明けから降りだした雨昨日まであなたの庭に降っていた雨

一日中雨が降ってる一日中雨を聞いてる蛙……私

祈りにも似た暮しなどに憧れるこの春ゆえの軽い変調

どこまでも空っぽだってことのほかその錯乱の理由を知らず

メッセージはもうどこからも届かない何の憂いもないはずの日々

光れ風 野分よ奔れ残生と呼ぶに短き時生きるため

人の世の栄枯盛衰見てきたる烏梢にとまる夕暮

平家谷、落人部落、桃源郷、杏花咲く村に来ている

父と子と古い公図を開いている古屋敷二町歩八幡平五町歩

犬目行きバスに揺られて四十分 君恋温泉今日は訪ねる

本陣の道を歩けば土埃 四方津へ降りる最終のバス

二重の生、二重の私を生きている梅雨入りの日の空々漠々

家を売り家を購いまた家を売りそうして心はざらざらになる

核融合試験官でもできるらし詩のようなもの創っているらし

人恋うて人恋いやまぬ夕暮よ蛍の沢と呼びし深沢

「夢だけに生きれば終り」腹が減ったか?と訊いてるレノン

「憎しみは愛だけが消す」ジャワルナデ大統領の手の鳩が飛ぶ

もう死んだ気になっているのか夏の蝶 幾何学模様の中に眠って

突然に視界展けて富士がある木のトンネルを抜けて行ったら

縁側に出て村を見る富士を見る南アルプス邑の朝焼け

道端の小石を蹴って歩いている彼岸花咲く寺までの道

富士よりも高く住むような村に来て無住の寺で聴く蝉しぐれ

もっと引けもっとサラッと歌えという艶歌の竜のひばりへの注文

私は暗いところで暮していた名だけ明かるい学園通り

閑雅なるよきものなんてこの世には存在しないものかもしれない

棄ててきた何かを思い出すように晴れた空から雨降ってくる

優しくも強くも生きてゆけないしオブローモフにもなれないけれど

失ったものの記憶は新しく脱け殻はみな標本になる

遠く住む友の葉書を読んでいるその街はもう雪が降ってる

思い軽く生きているよと告げている花と木のことだけ書いてある

何よりもその見通しの明るさは人がお金を出しても買うもの

身に即しあまりに近く身に即し息苦しくてならぬ石仏

まるでもう今日の不条理のように暗い舞台を見せられている

俳優の松田優作死んだ日に滝沢修のゴッホ観ている

蝋燭のほかには何もない舞台、青い炎になった老優

エピローグ、宇野重吉のナレーション死者に感動させられている

利休の死、死の死があって残るもの、流派という名の形骸ばかり

サイレント・マジョリティなどと呼ばれいつも何かに括られている

西多摩のなんじゃもんじゃの旧家には「富貴安楽」の額掛けてあり

街中の五重の塔をとり囲む墓一千基陣形に似る

火だるまになって死ぬのも非業なら延命治療という非業死もある

「萩の寺」その名おぼえて来てみれば墓地分譲は今盛りなり

奥多摩の渓谷二千年前の海パレオパラドキシアの伝説

生まれ落ちたる時の他にはドラマなく垣間見るだけの私の人生

「そしてまた雨ふる今夜私の両手は緑いろ」とソーサの歌う

焼き芋を売る声なども聞こえくる冬至の夜の駅裏通り

地下街にホーキを持った魔女がいる雪も降らない降誕祭前夜

魔女はもう空を飛べない世を忍ぶ仮の姿に地を這うばかり

一人旅、寅さんの身に憧れる自分が少し壊れはじめて

喪の明けた一月七日新年も〈貧しい庶民〉の暮ししている

雪ちらちら春の岬に降ってきてスティル・ライフはもう終わるのです

カムチヤツカ半島の先の点々に住んで原子炉の火も燃やしている

立葵、義手にて描ける人もいてただ思い出のためだと言って

北陸は能登能美郡根上町春の煙の立つ昼下がり

ひかえめに静かに生きてみたくなる酸晴雨降る白い一日

今は最期、とぎれとぎれのつぶやきのそのつぶやきのように降る雪

切れ切れに想い出したりして雪に 終幕近いシーンの音楽

昔見た夢のつづきをみるような「戦争と平和」の国の映像

夢ロシア雪のロシアのサモワール世が世ならという祖母の口癖

ここにいる私はいったい誰だろう春のうららの墨田川かな

墨田川ベイエリアまで川下り未来が少し見えてくるまで

もう誰の心も残っていないから風の別れのような青空

虹立つは昨日一人の魂が空へ急いで帰った軌跡

誰もいない午前の日差し浴びている昔の恋のような冬の陽

簡単な引っ越しが済んでマイケルと呼ばれた猫の飼い主も去る

生きていることさえ無駄の一つかも三月十日春雷を聞く

脳細胞の数ほどの渦巻銀河系宇宙、ピケットフェンスを幾つ超えても

ブラインド越しに見ている街の空、赤い屋根から濡れはじめている

いつからか既にオールド・ゼネレーション ミック・ジャガーの皺深き顔

南から吹いてくる風もう春が扉を叩いているのだろうか

ゆっくりと見えない破滅に向かっている何にもない日の春の夕暮

酸性雨降る雨の夜は鎧戸をおろして昔話をしよう

温室になった地球で生きている半分死んで病んで狂って

人が死にそしてそれから何もない 窓ガラスには雨の雫が

離れ猿次郎は親を知らざれば自分を猿と思わざりしよ

それぞれの運尽きるまで凩天にそよげよ風が流れる

人生と共に息しているような気がしないんだこの頃私

ぬかるみを歩いた人の足あとがぬかるみの中残されている

吸いこまれそうな魔の淵 透明な水に透明な魚が泳ぐ

月曜日の鬱のことなど書いてある「あなたも病気」という本を読む

朝は昼に昼は夕べに夕べは朝に何の不思議もないのだけれど

人類の子供二人を育てている春爛漫の空の真下で

少しだけ暗いところが好きだった陽あたる丘に住んでいたから

音のない雨を見ている音のない風を見ている一年の後

向かいあい一人は絵地図一人は歌のようなものなど書いている午後

煙突の見える場所から描いている五歳の地図の空の拡がり

星空の下のテントで眠っている消息絶った重信房子

隠れ家に日常があり石鹸の匂いしている幼児がいる

地下鉄の地下に水湧き流れる音淋しい人が背中押される

思う程死ぬのは簡単じゃないと呼吸不全に陥りながら

病院の地下には霊安室があり待機している葬儀屋もいる

究極のなれの果てなる同窓会初夏の銀座の三笠会館

一九九〇年の街角でグレタ・ガルボの死を聞くばかり

若い日は誰にもあったはずなのにシーラカンスのように眠って

私のためというなら何のため私は生きているのだろうか

日曜日の教会の裏は荒井呉服店 春の燕が通り抜けする

体制は黄昏の色、世紀末漂流民は流氷に乗り

黙示録開いてみたくなるような額の象徴もつゴルバチョフ

魂の蛍明滅しただろうあなたが病んでいた夏の日々

白い手のさよならだった細くなり小さくなって優しくなって

長い夢みているような気がします醒めない夢をみているような

エルドラド幻の郷エルドラド金の釣針のむ魚たち

蛙、蛇、鰐棲む河の流域に栄えて滅ぶ エルドラドという

地球儀の文字書き換えるミャンマーと、昔「ビルマの竪琴」を観た

教科書も地図もすっかり役立たない世界史に風、新しい風

NHK「七色村」のマリエさんプラハの春は再びめぐり

さよならがどうもになって終ること長い時間が流れていたこと

東洋の小男一人立っていてマチスの聖母子眺めているよ

ドミニコ会ロザリオ礼拝堂の壁、線で描かれたマリアとキリスト

美しいものは戦国乱世の落城の日の天守の自害

国分寺の家に行ったら咲いているえごの花びらもう泥だらけ

雨降れば傘さしてみる萼あじさい去年と同じ色に咲いてる

降る雨のように触れられないならばいっそ何にも無いほうがいい

気がつけば横になりたくなっている雨の日は雨の音聴きながら

何一つ残さず消えてゆくのがいい感動だけがすべてだったと

講習会「ゴキブリ団子のつくり方」、PTAの総会にいる

学校は金太郎飴本舗ゆえ熟練工のような教師もいる

規律説き正義押し売る人もいて胡桃を潰すように個を潰す

まだ見えない雨を感じているような雨の匂いのする日曜日

世界はもう遠くへ行ってしまったと微熱ある日の夕べの風が

異型の子みごもる地球いつしかにチェルノブイリに雨は降りつつ

家庭という殻が重たくなっている葉裏にひそむわがかたつむり

鬱々と鬱を重ねてゆくばかり生気失せゆく今日鴎外忌

難破した船から救い出すように絶版の書の数冊を購う

言葉とは冬の桜と詩人が言う風たちの歌聴いて育てば

「火薬庫」で火薬爆発、容赦なく苛酷に生きよと中東の風

新安値つけている日の市場ゆえ避暑地の猫のように眠ろう

そしてまた黄昏刻の映画館 「秋津温泉」「雪国」の恋

完結が死であるならばこの旅は滅びの歌がよく似合うはず

日本へこの子を連れていって下さいとチェルノブイリの若い母親

誰が死んでも空は照り風は真夏の街馳け抜ける

夕焼けが窓染めている安っぽい映画みたいだけれど綺麗だ

午前五時「桑の都」の蒸気立ち「中村豆腐」の硝子戸が開く

俊ちゃんと夏中行った香炉園、海水浴場だった昔に

私の生まれた頃の魚崎の海もきれいに澄んでいたはず

流木で沸かした産湯に入ったわけで漂いながら生きてるわけで

去年まで母が元気でいた家が八月の雨と草木の中に立っている

わけもなく今日は心が軽くなり九月初めの雨に濡れている

空はもう秋の空だと雲が言う日本海には高気圧がある

一顧だにかえりみられないもののため 石を積んだり崩してみたり

そしてもう春は最後の春になり秋は最後の秋になるかのかも

汗ばんで眠っていたのは睡蓮の葉かげに眠るおやゆび姫

万人に見放されている気がしているたった一人の人を失い

負へ負へと退却していた私の兵隊たちを呼び戻している

ひまわりに似た花が咲く夏の朝それも晩夏の雨上りの朝

〈カグー〉君は飛べない鳥と呼ばれているなぜそうなったのか誰も知らない

深海魚うちあげている秋の海何を嘆いている海だろう

国分寺の家の樹に似て太い幹蝉がとまっている夏の闇

窓際に誰かが忘れていった本 風が読んでる「梁塵秘抄」

私も月の小舟を一人漕ぐ「梁塵秘抄」の桂男のように

始まりはイエスの方舟、ものみの塔、富士の裾野にオウム鳴くまで

「オッチャン」は元気でいるか 方舟は夏の終りの海漂うか

また空が小さくなったまた青いシートが空へ伸びてゆく街

火炎ビン葦簀に移って燃え尽きた。三島屋商店炎上の経緯

不安との道連れであるあまりいい人生送っていないのである

その心見えなくなって長い日が、長い時間が過ぎてしまった

思い出を少し残して消えてゆくいつかあなたもいつかあなたも

レコードの針を降ろした時の音、多分忘れてしまうだろう音

振ってごらん揺すってごらんもしかしたら記憶の底の音がするから

生きて逢う最後の夏を見るように積乱雲をあなたは見ていた

悲しみは時が癒すという嘘を信じるふりを誰もがしていた

「苦楽園」誰が名付けし駅名と 小さな駅に人を待つ時

北側の窓から猫が出入りするすすきが白い川べりのアパート

じゃがいもを剥きながら思う一節 お皿を洗いながら思う一章

つい二年前まで母は生きていたその街角を曲って消えた

母だって死んでしまった神無月 見捨て給うな月は欠けても

悲しみに胸を切られて血を流す出血多量の夕焼けがある

「あなたさえいれば私は生きられる」久しぶりに読む恋愛小説

健全な市民のように生きたいと泥棒貴族の最後の仕事

そしてもし明日があるなら始めましょう貴方と二人の子供の暮し

何でもない普通の日々でも薔薇の日々、明日があるなら明日も薔薇色

世界中が留守になったと思うでしょうあなたのいない世界の夜明け

何の夢も希望もないと思える日「ヒマラヤの芥子」の絵葉書が来る

揺れている揺れて何かを想っている落葉前線移りゆく頃

虫喰いも形不揃いなるもよしその新鮮さ食してみたし

マーケット情報今日も変化なし大いなる雲空を覆えど

秋の午後歯医者の椅子に座っている「夜半には雨」と気象情報

究極は心の壁を持たないこと ホームレスヨーコ ニューヨークにいる

今そこを風が通っていったのは きっと精霊になったあなただ

「ジェラス・ガイ」レノンの口笛聴いている雨だれを聞くこともないから

恋しさに似たるは水の悲しさに母病むときは血のかなしさに

いずれ死屍累々の私だ 廃墟のような胸の洞だ

暮れかけた空見上げれば空さえも雲ばかりその蛇腹を見せて

投げている石の行方は知りません海がさらってゆくのでしょうか

誰かが幸福になれば私も幸福になれる 羊のような雲も浮かんで

「ローズ家の戦争」はいいまだたしかにいい初めに愛があったのだから

人一人たとえ病んでも狂っても笑い話になるだけだろう

住む人が変われば家も変わるのさ あなたのいない人生だって

今もまだ病院にいると思おうか私は一人と思わないため

ざわざわと樹を揺する風 起きなさい目覚めなさいと樹を揺らす風

素裸で立っている樹が美しい何にも飾ってない樹が好き

「アフリカは悲し雲も森も無く」滅びゆくものみな美しく

紙吹雪一枚残る青春は誰のものでもないプロローグ

あきらかにほがらかに声充ちる時、永遠の別れと誰思うらん

戦争が終れば次の戦争が、終らなくてもまた戦争が

結局はお伽話であるらしい生まれも育ちもひよわなる花

つるされてあまくだりくるたかみくらたみのかまどはにぎわうらしも

戦略も計画もなく生きていて、いつか身ぐるみ剥がされていて

多国籍軍兵士のための子守唄、女優メリル・ストリープも歌う

今日からは見えない犬を飼いましょう「犬でも飼えば」終る憂鬱

中東に今陽は射していたりけり青き地球の病み初むる頃

言ってみればこの雨のひとしずくのようなものかもしれない私は

タランチュラ赤い年老いた星雲 銀河に咲いた昏い紫陽花

太陽が暗くなるまで炉を燃やす ほろりほろりと人が死ぬまで

無条件降伏強いる強いられる貧しき者は幸いならず

一度だけ不用意だったことがあるあの時そしてそれからはない

充電を予告している赤ランプ かく果てしなく膨らむ宇宙

昔々地球という星があった 天満宮には桜も咲いて

三鷹にも雨は降るかもみぞれかも 春の雪降る禅林寺かも

茉莉さんが冷たい雨に濡れている茉莉さんは雨が好きだったけれど

この星に少し後先になって生まれてもしかしたら出逢えて

人生はこうして流れ去ってゆく「淡雪流る」その春の日に

「問題は数学ですね。」今回は私は母として聞いている

放心をしているような午后の空、春のプールに揺れている影

教室の窓から遠く眺めていた 鉛色したある日の海を

青谷を降りれば海星女学院、聖母子像も遥かなる街

春早き神戸の街の花吹雪今年の桜見ずに終りぬ

昨日来て今日帰りゆくような旅 親しみ薄き街になりゆく

この駅は久坂葉子の死んだ駅、阪急六甲通過している

もう一度風に逢うため私も一つの風となるための旅

私は急ぎ始めているらしい生き急ぐというほどではないが

老残を見せたくはない見たくない、風を誘って散る花がある

距離感が私を誘う 水流は風を含むと中国の詩に

ついにもう昨日の夢のように降る、雨のプールをみているある日

雨の日の雨のプールを見ている日 降りたくて降る雨なのだろう

N極は北極星の方を指す。北枕して人も去りゆく

既にもう優しさに似た残忍さ着心地のよい毛布にも似て

夢よりも儚き世とは思わざり日々生き難きこの世なりけり

もうすでに遠い思い出かもしれないこうしてみんな終ってゆくね

通いあう心もたない私と線路向こうの昼鳴く鶏と

純白の花咲くように純白の死が突然にあなたを捕え

麻酔事故 脳死十日の後のことピアノ教師の死のあっけなさ

もっと普通のありふれた、たとえば沈む夕陽のような

甲府から二つ目の駅が身延線善光寺駅、桜散る駅

満月の夜の花散る無人駅、銀河鉄道停車する駅

郵便はまだ来ていないかもしれない春の便りは少し遅れて

またいつか逢えればいいね春が来て花が咲く頃逢えるといいね

雨はもう降らないだろう離れ住むひとの心を伝えるようには

春今宵老父一人の逝った夜、湖の霧晴れてゆくらし

様々に色変えながら咲くことにすでに疲れていたりけるかも

誰だって魔法の杖は持ってないもちろん私の手は空っぽさ

幸福の青い鳥などいないことただ樹のように朽ちてゆくこと

私を呼んでいるのは洗濯機、「朝日のあたる家」の薄闇

沙羅の木の風に鳴る時風を知る夢見る頃を過ぎて久しき

とどめを刺すこともできるというように一秒間の空白があり

この岩を裂いてつくった切り通し落ち行く先も風の断崖

敗軍の将は鎌倉道を逃げ首塚一つ残していたり

もうすでにあきらめている人生の放課後に吹くその夏の風

その胸に咲く薔薇のため降る雨の優しさだけを愛しはじめて

日常が重く切なく辛いなら風の青さが身にしみるはず

見知らない街には見知らない人が、昔のあなたに似ている人が

逆瀬川、仁川、夙川、芦屋川、流れる水に花を浮かべて

玄関に猫が六匹居眠って、ローランダス家の風の休日

〈幕切れの見事さなんか言われても仕方がないよ生きていたいよ〉

手も足もからだも動かなくなってゆく、ダンディだった君の友だち

昨日まであった命が今日はない フォーミディブルは咲いているのに

やがて死はそこにひっそりやってきて待っているのだろうに 膝をかかえて

悲しんでばかりいないで夜光るこの遊星の光あつめて

地球ではいつも何処かでジェノサイド夜も目覚めて耳立てる犬

もし君が風になるなら海に出て帆を張る船の追い風になれ

やがて夜は明けるのだろう永すぎた君の白夜も終るのだろう

どこまでの私でいつまでの私 生きてなければいけないけれど

散り散りになってゆく雲 いつか見た夢なんかもう何処にもなくて

風が呼ぶあるいは雲が呼ぶなんて 誰も待ってはいない空なのに

夕やけが恋しい海の色が欲しい さまよう船をのみこんだ海

何度も何度もそう思う 虚しさの理由、悲しさの理由

死体なき殺人劇も終るから普通の日々も始まっている

衛星(シギント)はいつも見ていた天安門、アラビア半島、日本列島

砂漠は見えないものがあるという消えた死体や顔なき兵士

垣間見た世界の終りいつだってナンセンスなる世界の終り

人知れずグレていたんだ今日一日白い木綿に針刺しながら

従順に老いて死ぬゆえこの星に青い地球に緑の国に

湾岸より以後は朝夕刊を見ずニュースは後から知ることにする

風ははや時代をこえて吹くからに消去されてゆくホモ・サピエンス

〈我の死も友の死もない戦争〉と歌人の歌う戦争があり

中心は空虚で稀薄で退屈で自ら動く姿も見えず

その彼方、彼方の彼方の彼方まで もしできるなら遠く離れて

ほんとうに強い相手に勝てたならレジスタンスの勝利に酔える

メイフライニンフは今日も水遊びほんとうの自分にはいつなれるのでしょう

真っ白い曼珠沙華咲く〈石の華〉見えない花が今日もどこかで

私の生まれた冬のサモワールかなしみならば沸かせるだろう

千年の夜明け始まる新世界 月満ちるまで苦しむもよい

ほのぐらき憂いの森にかなかなと一期一会と鳴くなひぐらし

心には心の傷が絶え間なく〈優雅な行進曲〉が聞こえる

『何も無し』その日七月一四日、ルイ一六世の日記短く

終日をまた一生をうたたねのオブローモフの醒めて見る夢

死ぬ他は何にもしない夕陽さすそよぐ葉陰のアンシャン・レジーム

どのように生きても変りないものか 時に夕陽は美しすぎて

さびしさに空の真水を汲み上げて秋はこころのうちにこそ来る

晩年の母の気鬱をまぎらわす猫の行方もわからなくなる

後の世の人には何と呼ばれよう花火のような時代だとでも

こんなこともみんな忘れてしまうだろう三十年後の陽だまりにいて

何処にでも折って畳んでゆけるように絵筆数本持つだけの暮し

ささやかなこの幸福でいいのよと風に吹かれる青紫蘇の花

青い影、青い二人の影がある ゆきどまりかもしれない道に

ある日ふと空は裂けても虹もない明日を胡桃のように信じて

私がただ私であるために雨は静かにまた降ってくる

生きていることが一番大事なこと 九月の雨が降る優しさに

生きて在るそのことだけを愛してもトスカ暗愁かぜのゆうぐれ

幸福なことなのかしら日本に北半球に生まれたことが

団塊の世代に先立つ少数派 少しひよわと言われて育ち

ぼうふらのように発生した群れは冬の時代が生きられなくて

幸福な日々は終わって退屈な時代さえ去り、暗転の時

出て行って帰って来ない人もいる 街に空き家が目立つこの頃

透明な秋のつづきの日に消える ジジという名の黒猫置いて

病む時があるから癒える時がある一番好きな季節は晩秋

アマデウス、蝋燭の火が消えるから早く書いてよそのレクイエム

眠れなくなるのは思いつめたから《あんたとあんたの音楽のせい》

誰かもまたどこかで歌を歌っている朝が来るのが待ちきれなくて

雪、雪、雪、雪が降る 世界は白い愛に満ちている

狂うほか死ぬほかなくて居る砂浜 千鳥が波を呼んでいるから[ 智恵子抄より]

どこにももう飛び立てないし帰れない 華奢なつくりの鳥篭がある

五ヵ月の無音、訪れなき日々は紙を切るよりしかたもなくて

やつれてゆく姿見るほど強くないゼームズ坂は日に日に遠い

その恋の物語には封印を 虚しくひらく贖罪の花

晩秋の雨なら知ってるかもしれない私がこんなに疲れたわけを

だんだんと心も冷めていきますね 日向の匂い忘れるほどに

なお濁り濁りきれない街の空 静かに破滅することもある

おとなしく発狂するしかない真昼 ただ待つだけの時間の果てに

太陽は西に沈んでゆくときに少しみんなを幸福にする

いつだってあの人の後を歩いている二十年後を歩く坂道

電車からまだ見えていた赤い屋根、雑木林の古いあの家

もうそこに今は無い家、無い林 焚火していた黒沼博士

身のおき場心のおき場なき日暮 生まれた国に生きて暮して

日々辛酸日々に破滅をくり返す血の色に似た夕空がある

今はもう誰も呼ばない語らない星がどこかで瞬いている

ガリレオが望遠鏡で見た世界 信長公の回す地球儀

あの人はいつも悲しい眼をしている 夢で時々会うあの人は

一瞬の炎がそれを包みこむ 世界を支える樹が炎えている

どんな場所どんな時間にもホロコースト海の向こうはそんなに遠い?

身震いもしないで獣が目を醒ます 今太陽が昇ったところ

絶望と希望の間に架かる橋 それが虹なら消えやすい橋

祈らせて奪う命もあるだろう〈雪のサンタマリア〉の祈り

原子量58・933記号CO原子番号27それがすべての始まりだった

半身はバターのように溶けたから残った臓器は貴方にあげる

〈ハルシオン〉飲む大統領 明日もし西海岸に雨が降ったら

永遠に周りつづける宇宙船 帰還不能の飛行士がいる

帰れない宇宙船から見る地球 国境にいま雪が降ってる

いつまでの世界だろうか子供たち運がよければ時間はあるが

石積みの一つ一つの均衡と石の一つの忍耐力と

そしてまた時代は変わる青空の水平線の向こうから来る波

満開の桜の森の樹の下に二度と眠るな上野の雀

そう言えば短い戦争があった 長い破局が始まっていた

〈私〉の死につながってゆく足跡 遠く逃げれば遠く行くほど

誰だって最後は不慮の死を遂げる 運命という風の一撃

降りかかる雪はいつでも美しい とりわけろくでなしの死に顔

「学校に行きたくない」と電話して横浜線に自死せる少女

大丈夫父母は気づいておりません むしろ我が身を責めております

部外者に口外してはなりません貴方の子供が可愛いかったら

父母集会 美談、拍手で終ります めでたく一件落着します

朝刊に轢死と載ったそのわけを知ってはいても風の噂に

黒塗りはコピーミスというわけではなくて教育委員会の調査報告

校長は無事に退職されました 何事もなき春の夕暮

遠い日に逃げてしまった青い鳥 つがいの鳥の一羽だったが

雪だけがあなたの心の色に似て触れようとすれば消えてしまう

死んでいるのではないよ ただ眠っているのだ蝶は 石よ

傾いて立つ樹のように傾いて風の手紙を待っているだけ

いつの日かまた逢う風の又三郎 さよならだけが人生じゃない

これよりは終着駅へ突っ走れ春の日暮れの海岸電車

懐かしいオブローモフに逢ったんだ 午前零時半に別れた

絶望の他に何にもないのならその絶望を食べていなさい

それは怠惰のせいというのでもなく多分生まれつきの他なく

パラダイムシフト完了夜明けだと囀る鳥の声がしている

『君たちのために腐ってしまった』もっと上手に腐らせてあげる

この上はもう何もない焼野原 春の雪降る窓を見ている

逢えるでしょうきっといつかは逢えるでしょう君は優しいゴーストになる

死のうかもう楽しいことがないのならgame・overする揚雲雀

どん底に何度も落ちてきたじゃないもうお終いと思ったじゃない

倒れこむ愛があるならそれもいい知らんふりなどしているのもいい

積載量オーバー許容量オーバー風に吹かれていたかったのに

雛人形飾って納う武者人形飾って納ういつまでの花明り

「幸福の木の実」一粒あればいい尊厳がもしそんなものなら

降る雨のミサイルよりも怖いもの生きて気体になる私たち

激突で最後は終る松葉杖そっと隠していっても無駄さ

よかったら焔の瓶詰一ダース 夢の時間さ 炎やしてあげる

ダレモミナココロニキヅヲモツという ありふれた死もやがて来るべし

少し寒く少し疲れた。夏が来ても眠っていたい木の陰の蛇

明るい日、明るい五月 草も木も花さえ殺意秘めたる五月

看守付き格子付きではないけれど花降る午後にまだ行き逢わず

〈主体〉なら遊びに来たよ昨日から誰かの胸で死にたがってる

もう何も無いことを知っている新しい日々にも何もおこらないことを

憂愁の最前線はどこにある空が錯乱する夏の朝

この街にカラスが飛んでくるわけは死臭が漂いはじめたからさ

蜘蛛の巣の繊細な糸かけられてついに息やむまでの宙吊り

物置に蛇のぬけがらいたちの巣迷宮の入口というわけではないが

燃える街、暖炉に落ちた焼夷弾 母の記憶の中のその夏

川鉄の、神戸製鋼所の煙 阪神工業地帯の煤煙

ふりむけばいつでもそこに街角に、海があったが夢かもしれない

今さらに何を求めて小綬鶏は午睡している榛の木を呼ぶ

榛の木は応えられずに耳澄ます 崖を下ってゆく水の音

一行の詩には償う力がない ゆうべ生まれてけさ死ぬばかり

あじさいの花の下にはかたつむり 雨降る午後の物思いして

桜桃忌・鴎外忌など来ると思う 明るい雨の降る街に出て

灯篭の水に流れる八月は昨日を吹いた風に吹かれる

八月のさまよう死者が問いかけるドウシテワタシハカエレナイノカ

「もしかしたらこの手で殺したのかもしれない」王の悲惨は夏に始まる

健康で生きていること死なぬこと『辛酸佳境に入る』に至らず

初めから根こそぎだった草だから 不在は誰のせいでもなくて

「あきらかに産湯を出ない一生」と占いに凝る親戚の人

「情報が話してるから僕たちは何にも話すことがないんだ」

あんな死が僕の死なんて思うなよ 悪戯好きの天使のドジさ

いきなりの自己主張とも見えてきてなぜこんなにも血を見る世界

いうなれば二重の条件つきの生 台風の目の中の日本

一九九二年の夏である 日本が日本を病んでいる夏

それだってまた喜んで手を振って 前へ前へと押されていって

突き抜けて吹く風だったはずなのに中上健次死す夏となる

しなければよかったことの一つ二つ生まれたことに比べれば何も

明日きみが死んだら信じてあげるその嘘の幼さ

雨雲は東へ去ると伝えくるさらに深まりくる欝らしき

あの人を嫌いにならないでおこう雨の日はラフマニノフを聴きながら

もう誰もいないから空は晴れて明日は明かるい日になるという

鬱陶しいほどの緑のなかにいて湧水に手をひたしていたり

富士川の上流という早川で貝の化石を拾ってきました

星が落ち貝が化石になるまでの時間をヒトは蛍のように

みすずかる信濃追分ふりむけば桔梗色した秋が来ている

その人も白いすすきのように立ち〈笛一管による井筒〉舞う

血まみれの時代の顔がふりかえる 撃ち抜かれている人間の顔

木陰から木陰へ続く小径より栗のいが踏み上る石段

栗の木の栗落ちる音えごの木の実の雨だれに似て風に鳴る音

くぬぎの実ならの実しいの実けやきの実かしの実も落ちよ風の連弾

夕暮の富士シルエットになってゆく想い出だけで生きてみようか

国分寺崖線に立つ古家は嵐吹くたび傾いでいった

海亀を見においでって言われた日 まだ観音寺にいた頃のこと

海亀は漁協の樽に入っていた お酒をのませて海に帰した

その町に昔私は住んでいた「浦島太郎」の村の子のように

千年もその前からも住んでいたその頃の人もまだいるような

伝説の岩 女が身を投げてその血に染まった海の赤岩

漁師には海があるから海へ出る 人はどうして生きるかなんて

絶滅種の一つになるかもしれない海に降る雨が見たくて海見ていれば

意味もない 疲労ばかりが快い耐えがたいまで哀れな人生!

豚よりもましかもしれないヒヒならば・・・桜の園に死にたきものを

恩寵のように澄んだ青空 美しい冬です風邪をひかないように

お気遣いは無用 微かな苛立ちといつも同じ軽い憂鬱

誰よりも柔らかそうな栗色の捲毛はナポレオンの遺髪

睡蓮と蓮の違いを誰かが言う眠く気怠く美術館の茶房

マケドニア、昔大王の生れし国〈フルーツポンチ〉の危険な香り

まだ君の火薬は湿っていませんか?僕の火薬は濡れていますが

木枯らしがおまえを待っているばかり隠れ家はもうないのだからね

暗いから灯りがとても美しいだから暗闇を怖がらないで

小鳥はいつ逃げたのだろう檻はいつ私を閉じこめたのだろう

また冬が来るのだろうか何連れて 掌にのるほどのかなしみ

ひとすくい匙で掬ってごらんなさい焦げる匂いがする 胃袋で

どの草もみんな同じ倒れ方 倒され方も似てくるものね

東洋の辺境に棲む水棲まし 波紋までもが愛らしいんだね

Ir・GaGa 水を私にと祈る シュメール文字が巨石に残る

夢を見た出血多量の紅雀 しばらくは眠れそうもない

照る月に流れる雲の影映る 湖底に村が一つ沈んだ

ともかくもそれを涅槃と呼ぶがよい行き倒れたる〈同行二人〉

御誂え向きにぼろぼろではあるがなかなか着心地のよい隠れ蓑

美しく時は過ぎたと思うべし切断の後動く虫けら

憧れて生きていた日もあったのに多分そうだったのに 忘れた

交番はいつも不在だ神様もいつも不在だ『パトロール中』

「お母さん かたつむりって貝なんだよ」 六月の雨、雨の降る庭

風ならば初夏の小径を吹いていた 古井戸一つ隠す草むら

つわぶきの黄色い花も咲いていた萼あじさいの群落の蔭

王女という渾名のがまが待っていた 雨降る前の夜の玄関

美しい楽しいことはもうないと街の隠者のように棲む蟇(ひき)

洞窟にluminous moss光蘚(ひかりごけ) 未知なるゆえに我は愛せり

行く航路(みち)を見つけたのかもしれないね 船の舳先に灯りが見える

そこだけに風が流れている気配 河口に近い海を見ている

夕焼けが好きだった子供は夕焼けが好きな大人になった それだけ

天国に一番近い収容所 一生何もしなかった罪

抵抗がなくなったから飛べません 漂うことももうできません

あの声で遠い昔も啼いていた 夜明けの空に弧を描くカラス